後期研修医が大学病院にとって「都合がいい」理由 勤務時間減では解決しない「医師の働き方」改革

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厚生労働省は過労死の基準として、「発症前1カ月間に100時間、または発症前2カ月間ないし6カ月にわたって1カ月あたり80時間を超える時間外・休日労働」という数字を示している。谷川教授の報告から筆者が算出すると、前者の場合、月の残業時間は160時間、後者は240時間だ。医師の過労死が相次ぐのももっともだ。

悲惨なケースもある。2022年5月、神戸市の甲南医療センターに勤務する26歳の内科医が自殺した。労働基準監督署は、月に200時間を超えた時間外労働による精神疾患が原因と認定した。

このような事情を知れば、医師の働き方改革は時宜を得た対応とお考えの読者も多いだろう。

だが、筆者の考えは違う。このような対応は、長期的には医師のためにも国民のためにもならない。下手をすると日本の医療を崩壊させかねない。

医師は個人事業主が向いている

では、どうすればいいのか。結論から言おう。筆者は医師の労働時間を規制するのではなく、病院と医師の契約関係を見直すべきと考えている。具体的には、病院と医師が雇用契約を結ぶ勤務医という形態を見直し、医師が病院と業務委託の形で契約する個人事業主としての形態を認めるべきだ。

なぜ、勤務医ではなく個人事業主として働くべきなのか。それはそのほうが医師にとっては合理的だからだ。また、高齢化が進むわが国では、個人事業主のほうが国民のニーズの変化に柔軟に対応できる。

今後、わが国では人口構成の変化とともに、求められる医療の内容が変わる。令和5年版『高齢社会白書』によれば、わが国の15~64歳の人口は1995年をピークに減少を続け、2022年は14.9%減の7421万人に。前期高齢者(65~74歳)も2015年をピークに、2022年は1687万人(3.7%減)となっている。これらの世代は今後も減り続け、2050年にはそれぞれ5540万(2022年と比べ25.3%減)、1455万人(同13.8%減)となる。

一方で、増えるのは75才以上の後期高齢者だ。2022年の1936万人が2050年には2433万人(25.7%増)になる。

前期高齢者までと後期高齢者は必要とされる医療が違う。前者はまだ体力があり、外科手術や集中治療により治癒や延命が期待できる。

後者はそのような負担が大きい治療に耐えられず、近年開発された副作用が軽い薬物療法、負担が小さい内視鏡治療やカテーテル治療に頼るしかない。患者のなかには入院や治療を望まず、在宅での看取りを希望する人もいるだろう。

その結果、大学病院などが提供してきた高度医療を必要とする患者は、急速に減少し、その傾向は、すでにさまざまな医療分野で確認されている。

厚労省が3年ごとに実施する「医療施設調査」によれば、2000年代に入り、年平均で5%増加していた手術数が、2017年には2.1%増にペースを緩め、2020年には減少に転じた。

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