官僚を引き抜きロビイストにする「巨大IT」の裏側 「この前まで逆側にいたじゃないか」激しい攻防
デラヒムはその後も好調だった。米議会公聴会ではグーグルとフェイスブックの名を挙げ、両社のネット広告事業を調査していると明かした。当局が調査対象の企業名を公にするのは珍しいことだった。
ところが、驚くことにそのデラヒム本人がグーグルのネット広告事業と密接に関わっていた。デラヒムは2007年、グーグルのロビイストとして、グーグルによるネット広告大手「ダブルクリック」買収の承認を支援していたという。
「(グーグルは)ワシントンでの活動を強化するため、外部の3つのロビー会社とも契約した」
「(共和党寄りの1つのロビー会社は)ブッシュ政権で司法省副次官補として独禁法チームの責任者を務めたマカン・デラヒムを迎えたばかりだった」
グーグルが巨大化する過程を追った『グーグル秘録』にデラヒムの名前が出てくる。
画像や動画の広告に強みを持つダブルクリックの買収は、ネット広告市場でのグーグルの支配力を決定づけたと言われていた。
「彼ほど分かりやすい形で(元ロビー担当企業に)偏った政策を打つ人はいないですよ。司法省の反トラストの長になった人間がそれでいいんですかね」
あるアメリカの弁護士からは、そんな話も聞いた。かつてグーグルのロビイストだった人物がグーグルの調査を指揮する。そんなことが許されるのだろうか──そう思うのは私だけではなかったろう。
2020年初め、デラヒムは静かにグーグルの調査から身を引いた。司法省は「以前の仕事との利害関係を改めて検討したところ、巨大ITの調査に関わる案件から身を引くべきだと判断した」とする短いコメントを出しただけだった。
政権と民間の間でめまぐるしく人が出入りする「回転ドア」。急成長の過程で、将来の独禁当局トップをロビイストとして取り込んでいた事実は、グーグルの強力な政治力を感じさせた。
巧妙なアップルの規制阻止
アップルが2022年にアメリカでロビー活動に充てた金額は936万ドルと、GAFAの中では最も少ない。だが、私の印象では、アップルが最も効果的にロビー活動をしているように見える。それはCEO、ティム・クックの強力な「トップロビー」も関係しているだろう。
裏ではえげつないこともやっている。2021年、ワシントンのある議会スタッフの転職が注目を集めた。巨大ITの規制を検討する民主党上院議員、エイミー・クロブシャーの立法スタッフが退職し、アップルの対政府担当になったのだ。
クロブシャーはアップルのアップストアに対する規制を強く唱え、規制法案を提出していた。その手の内を知るスタッフが「反対側」のアップルに取り込まれる形になり、関係者に衝撃が走った。
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