「新しい封建制」の到来から私たちは逃れられない ローマ帝国末期を想起する都市衰退と人口流出

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パンデミックによって不安や動揺が起こる以前から、街中での暴力行為や財産犯罪は増加していたが、これに対処しようという都市当局の強い意思がみえないため、大都市からの人口流出は加速した。

2010年から2020年にかけて、アメリカでは都市部の中心的な郡の人口は270万人減少したが、大都市圏の郊外・準郊外の人口は200万人増加した。2015年以降、大都市は小規模の市や町に人口を奪われる傾向にある。

2022年には、都市の犠牲のうえに農村部の人口も増加した。歴史を通じて、都市は文化と経済の発展の中心であり、イノベーションと社会的地位の上方移動(upward mobility)〔以下、「社会的上昇」〕を生み出す主要な拠点であった。今日みられる都市の衰退と都市からの人口流出は、ローマ帝国末期を思い起こさせるものがある。それは、より断片化した地域社会への回帰であり、そこから封建制秩序が生まれることとなる。

民主主義と権威主義の「ハイブリッド政権」

都市の衰退とともに、全世界で民主主義が衰退し、権威主義が台頭している。

フリーダム・ハウス〔訳注 世界規模で自由を守るために活動する国際NGO団体〕が2021年に発表した報告書によると、ヨーロッパですら民主主義は世代を超えて衰退しており、隣接するユーラシア諸国の政府は、選挙のような一部の民主主義的形式と権威主義的なメディア規制、市民デモや公然たる政権批判にたいする厳しい制限を組み合わせた「ハイブリッド政権」が大半だという。

一時は全世界が自由民主主義と市場資本主義に向けて進歩を続けていくように思われたが、いまや中国の習近平、ロシアのウラジーミル・プーチン、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンといった専制君主や(彼らほど強力ではないにせよ)権威主義者たちの支配する新たなユーラシアの世紀がやってきかねない状況だ。

彼らの視線の先にあるのは、ジョン・ロックやジェイムズ・マディソンではなく、中国の皇帝やロシアのツァーリ、オスマン帝国の皇帝たちである。

中国は2001年のWTO加盟で、欧米の民主主義国家に近い体制に移行するものと広く期待されていた。だが結局のところ、経済大国へと躍進した中国は、個人の政治的権利や財産権といった自由主義文明の基本的要素を受け入れることはなかった。

現在の中国は、モンゴル帝国や14世紀の明王朝の時代と同様、立憲民主主義国家になる可能性はほとんどない。半永久的なカースト特権とテクノロジーにより社会統制を強めることで防御を固めたきわめて国家主義的な専制国家へと発展した。

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