「新しい封建制」の到来から私たちは逃れられない ローマ帝国末期を想起する都市衰退と人口流出

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このような危機のなかで冷静な議論を行うことは、不可能ではないにせよ難しくなった。概して主要メディアは、政府当局が発表した内容を繰り返し伝えるだけであった。ウイルスとその起源、影響を最小限に抑えるための最善策などにたいする異論は、たいてい抑え込まれた。COVID─19対策の規制を強く支持する者もこれに強硬に反対する者もお互いを悪者扱いした。陰謀論や怪しげな治療法を勧める影響力のある主張が特に右派の側から起こった。

確かに、生命や健康に害を及ぼすおそれのある提言については精査されるべきではあるが、政府関係者やソーシャルメディアが、支配的な政策にたいする熟慮された批判すら排除しようとしたことは問題である。歴史上幾多の危機がそうであったように、間違いなく公衆衛生上の深刻な危機である新型コロナパンデミックは、政府による言論と行動の統制をかつてなく強化する状況をもたらした。国民の怒りが爆発したのはアメリカだけではない。フランスやオーストラリアなど他の民主主義国も同じであった。

「エコ中世的」世界観

さらに悪いことには、政策決定において国民の承認を避ける傾向が定着してしまうことも考えられる。環境保護主義者のなかには、COVID─19への対処策として講じられた一連の異例な措置について、人類と地球を救うために必要だと信じる規制の「試験運用」とみなす人もいる。

国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、自然が「私たちにメッセージを送っている」と述べ、新型コロナパンデミックやその他の感染症が起こる理由は、野生動物の生息地に人間が足を踏み入れるようになり、人間が動物からウイルス感染しやすくなったからだと考えている。

パンデミックと環境問題との関連性は、下流階級が犠牲を払いますます貧しくなる一方、(中世の貴族や聖職者に相当する)現代社会の上流階級はほとんど痛痒を感じないという「エコ中世的」世界観に通じるものがある。

新型コロナパンデミックとそれに伴う規制やオンラインワークへの移行も、大都市の衰退を加速させた。パンデミックの時期にアメリカの都市では殺人件数が急増した。もっと言うと、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど世界の多くの大都市も、近年さらに危険な場所になっているのは明らかである。世界各地の不安定状況は憂慮すべきレベルにまで達しており、封建時代の再来を予感させるものがある。

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