DEAN&DELUCA上陸20年躍進の裏に見えた苦悩 「出店が早すぎてブランド本来の個性を出せなかった」

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――どんな手を打ったのですか。

横川:目指している本質的なところを社員が理解し、かたちにしてもらうにはどうしたらいいかと悩み、ライブトークを行ったのです。うちの企業理念は「感性の共鳴」ということで、一人ひとりの感覚を尊重する社風を目指してきたのですが、実践していくのは予想以上に難しい。

自由な発想を広げてほしいと思う一方、これだけは譲れない、変えてはいけないものもある。でもそこを、きれいな言葉でまとめても伝わっていかないと感じていました。

いろいろと考えた結果、全社員を集めてブランドの本質や僕の考える感性について語るセッションを、ライブで行おうと思いついたのです。働き方研究をしている西村佳哲さんに聞き手になってもらい、質問の準備も台本もいっさい用意せず、ぶっつけ本番で行いました。

――ぶっつけ本番で行った理由は何ですか?

横川:過去の経験から、整った言葉だけで説明しても、伝わらないとわかっていました。それより僕が答えに詰まったり、悩んだりしているところも含め、社員にありのままを感じてもらうほうがいいのではないか、より伝わるのではないかと考えたのです。

かかわる人が増えると判断のスピードが遅くなる

――社長が日常的な言葉で語っている姿を目の当たりにすると、意図するところが伝わりやすいように感じます。

横川:そうなのです。そして終了後、トークを書き起こしてこのような冊子にまとめ、全社員に配ったのです。

――コンパクトな冊子で、話し言葉でつづられているのでさらっと読めそうです。目次に「船団の話」「個人店と同じステージにいる」など8つの項目が並んでいて、中はQ&Aの対話でつづられています。

読んでいくと、「かかわる人が増えると、それぞれの裁量を分け合うから判断のスピードが遅くなる。(中略)でもお客さんが求めているのは、目の前の自分に、お店の人が、その人自身の判断で働きかけてくることだとずっと思っているんです」など、よくあるブランドブックのように、キーワードや図解が盛りだくさんというパターンと明らかに違います。

横川:ありがとうございます。まさに社員にそうとらえてもらうことを意図したのです。

横川正紀氏(撮影:梅谷秀司)

――今年でD&Dは20周年を迎えると聞いて、それなりの歴史を持ったブランドに成長したと改めて感じ入りました。“らしさ”について、横川さんはどうとらえていますか。

横川:まずは、創業者であるディーンさんとデルーカさんの思いにあるのではないでしょうか。ブランドのルーツを忘れず、目の前のお客さんや街に向け、何をどう表現していくのかを、徹底して考え抜いて実行していく。

そしてそれは、つねにアップデートされていなければいけない――これは僕が2人から教えられた大切な信条です。そして、そのルーツにあるのは、おいしい、美しいといったことだけではなく、「人間にとっての本当の豊かさ、生きる喜びを追求し、それを多くの人々に伝えていきたい」ということ。僕はその思想を、「等価」という言葉で表現しています。

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