肥満で「やせるべき人」「やせなくてOKな人」の違い 販売準備中、2つの「肥満治療薬」はどう使うか

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最新の国際研究では、セマグルチドを最長5年間続けることで、心臓や脳血管の病気の発症を減らせることもわかった。

「詳細な結果は未公表ですが、肥満症の人が体重を落とすことで、命に関わる合併症を減らせることが示されました。体重を減らすべき人を見極めて治療することが正しい方法だと裏付けられました」と、横手医師は解説する。

リバウンドも気になる。結論としては、薬をやめて元の生活に戻れば、体重は再び増えていくという。

横手医師も、「セマグルチドで減量に成功したら、何らかの形でそれを維持することが必要。薬を継続することが必要か、食事・運動療法だけで維持できるのか。これから模索され、方針が確立されていくでしょう」と見込む。

セマグルチドの副作用は悪心(吐き気)、嘔吐、下痢、便秘など。これについては、薬を少量から始めて段階的に増やしていくことで、徐々に慣れるという。ただし、耐えられずに中止する人もいる。臨床試験でその割合は数%だが、偽薬を使ったグループよりは高かった。

ほかに重大な副作用としては、低血糖、急性膵炎、胆のう炎などがある。急性膵炎は、発生頻度は0.1%とはいえ、重症化の可能性もあるので、初期症状(嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛など)に注意が必要だ。

セマグルチドによる治療が始まったらどうすればいいか。

肥満症に心当たりがあれば、肥満外来などがある医療機関で相談を。自分が対象であれば、有効性や安全性、医療費に関する説明を受け、それに納得したうえで注射を始める、という流れになるだろう。

どの医療機関で治療が可能になるかは現在未定で、今後明らかになると思われる。

美容で「GLP-1ダイエット」の筋違い

このセマグルチドに関しては、すでに一部の医療機関で自由診療のもと、美容・ダイエット目的で使われている実態があり、大きな社会問題となっている。

こうした「メディカルダイエット」「GLP-1ダイエット」については、製薬企業をはじめ厚生労働省や国民生活センター、日本医師会などが注意喚起している。横手医師も「インターネットを見て驚いた」とし、2つの問題を指摘する。

1つは、「やせる必要がない人、肥満でもない人が使用して、重い副作用が発生するなどの不利益を被ること」。もう1つは、「本当に必要な人に薬が行き渡らなくなること」だ。

前者については、「低血糖や急性膵炎などの副作用に適切に対応できない可能性もあります。そもそも、誰もがやせる必要はなく、標準体重を下回るレベルを目指す必要もありません。やせすぎは、感染症や骨粗鬆症、不妊などのリスクを高める恐れがあります」と横手医師。 

後者については、「セマグルチドは糖尿病薬としてすでに健康保険で認められています。美容・ダイエット向けに流れてしまうと、糖尿病や肥満症の人が使用できない状態になるかもしれません。その状態が長く続けば、糖尿病などに伴う健康問題を防げないという深刻な問題につながります」と話す。

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