10月酒税改正、ビール各社「チューハイ」強化の訳 キリン、サッポロが相次いで新商品を投入

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いち早くノウハウを蓄積し、「異彩を放つ」ためにサッポロが重視するのは、スピード感をもった商品開発だ。チューハイはさまざまなフレーバーやアルコール度数の設定によって消費者の多様なニーズに応えやすい分、トレンドも変わりやすく商品の改廃が早い。

武内氏は、チューハイ事業について「(比較的流行り廃りの少ない)ビールの感覚でやってはいけない。絶え間なく提案を続け、ニーズに応えるのではなく新しいニーズを創出し続けることが重要」と語る。

サッポロは商品開発にAIを活用

そのために用いるのが、人工知能(AI)だ。日本アイ・ビー・エムと共同開発し、商品化の過程で過去検討してきた約1200種の配合や約700種の原料情報を含むレシピを学習させた。今後のチューハイ開発において「何らかのかたちで必ず活用する」(武内氏)方針で、商品開発にかかる総時間を約5割削減する効果が期待できるという。

サッポロビールの武内亮人マーケティング本部長。AI活用や内製化で缶チューハイ事業の収益性向上を狙う(撮影:佐々木仁)

生産能力の増強にも乗り出す。10月には仙台工場で缶チューハイの新しい製造設備を稼働させる。これにより同社の缶チューハイの生産能力は2倍に拡大する。サッポロではこれまで一部の生産を外部委託してきたが、自社製造に切り替えることで、生産の効率化や物流の最適化を図る狙いがある。

一般的にチューハイは、ビールに比べ収益性の低さが課題だった。安売りの対象になりやすいうえ、生産拠点が少ないために物流費が高くなることなどが理由だ。サッポロの戦略は、こうしたチューハイ事業の構造を意識したものといえる。武内氏は「『男梅サワー』といった基軸ブランドを確立できたことで、新商品にも積極的に投資できるようになった」と話す。

チューハイ強化は他社も同様だ。サントリーは「ほろよい」「-196℃」などの主力ブランドで新フレーバーや季節限定商品を投入する計画。アサヒも2025年までにチューハイ等の事業の売上高を2022年比1.5倍以上の600億円とする目標を打ち出している。

今回税額が据え置かれたチューハイは、2026年10月には増税が予定されている。だが、それでもビール類との税額差は続く見通し。ビール類の「補完役」として、チューハイの役割はますます増えていきそうだ。

田口 遥 東洋経済 記者

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たぐち はるか / Haruka Taguchi

飲料・食品業界を担当。岩手県花巻市出身。上智大学外国語学部フランス語学科卒業、京都大学大学院教育学研究科修了。教育格差や社会保障に関心。映画とお酒が好き。

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