「イルカの難病」に挑んだチームが見つけた新事実 高齢化が進む飼育動物、「健康維持」が課題に

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この結果にたどり着くまで、植田氏は30年弱、鈴木氏と西山氏は学生時代から研究している。そこまで研究に情熱を費やせるのはなぜだろうか。

「やっぱりイルカが大好きなんですよね。いや、オキちゃんが可愛いからですかね」と、西山氏はあふれんばかりのイルカ愛を唱える。

これに対し、植田氏はイルカの可愛らしさとは違ったところに興味を示す。「“不思議な生き物”だから。ただその一択です」と述べ、鈴木氏もそれに賛同する。

「これまでずっとよくわからなかった腎臓疾患の正体が少し見えてきた。自分たちが生きている間に原因がわかって、正直ホッとしている」と鈴木氏と植田氏は口を揃える。

沖縄美ら海水族館で飼育するバンドウイルカ(写真:国営沖縄記念公園(海洋博公園)沖縄美ら海水族館 提供)

とはいえ、まだ終わりではない。イルカを助けたくて仕方がない彼らの道のりはまだまだ続く。「これからは腎臓疾患を引き起こさないような飼育法を模索していく必要がある」と西山氏は話す。

植田氏も「原因となる物質がわかった今、私たちも対策を考えなくてはならない。例えばリン酸カルシウムが比較的少ない魚や、それに代わるエサを考える必要があるのかもしれません」と述べる。

動物の尊厳が守られる社会を

1990年代に、日本の水族館や動物園が飛躍的に増えた時期があった。これら施設は、動物を来園客に見せることが主な目的だった。しかし時代を経て、施設の主な目的は、動物を長生きさせるための飼育をすること、と少しずつ変化をしている。

「これからは動物をきちんと長生きさせる、そして健康を保たせることが求められると思います。そのために、飼育員は調査や研究をしっかりしなくてはならないという使命を持っています。私たちチームの最大の目標は、我々の研究人生が続いている間に、イルカの腎臓疾患に関する診療ガイドラインを作成することですね」と、西山氏は語る。

長く生きるだけでなく、健やかに生きてほしい――。これが研究チームメンバーの願いなのだろう。イルカに魅せられたチームの奮闘は、これからも続く。

永見 薫 ライター

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ながみ かおる / Kaoru Nagami

1982年生まれ。兵庫県出身、東京都在住。大妻女子大学比較文化学部比較文化学科卒業。中国と日本の女性史を中心に比較文化学を学ぶ。複数の企業勤務を経て2014年よりライター。主な執筆テーマは在学中より関心の高かったジェンダーや多様性のほか、働き方、子育て、まちづくり。1児の母。Twitter:kao_ngm

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