「イルカの難病」に挑んだチームが見つけた新事実 高齢化が進む飼育動物、「健康維持」が課題に
話は、チーム発足の30年ほど昔にさかのぼる。
植田氏は1996年に大学卒業後、同年国営沖縄記念公園水族館(現沖縄美ら海水族館)へ着任する。以来、主に海洋生物の病気について研究を重ねてきた。とりわけ研究対象として魅力を感じたのがイルカだった。
イルカを熱心に研究する人は植田氏に限らない。全国にいる研究仲間の1人が、「イルカを救うチーム」の一員である日本大学 生物資源科学部教授の鈴木美和氏。イルカの生理機構を調べる科学者だ。
植田氏と鈴木氏は、学生時代からイルカの共同研究を続けている。卒業後も互いに研究データや分析結果などを共有しながら、イルカ研究を進めてきた。
なぜイルカの腎臓の病気は難解なのか
植田氏によると、これまでイルカでは肺や肝臓の病気は治すことはできていたものの、腎臓疾患に関しては原因がわからなかったため、治すことができなかったという。しかもイルカが腎臓疾患を患うと、重い障害が残り、命にも関わることも多い。
だが、なぜイルカの腎臓疾患は難解なのか。植田氏はこう説明する。
「通常、イルカの病気を研究する際は、イルカと同じ仲間の偶蹄類(ぐうているい)である豚や牛などと比較することが多い。ですが、イルカの腎臓に関しては、比較するのが難しいのです。なぜならイルカは特殊な形状と機能の腎臓を持っているからです」
だからこそ、なんとか病気の原因を解明して、長生きしてもらいたい――。
そんな2人が次なる手段を考える際に助言を求めたのが、香川大学医学部教授の西山成(あきら)氏だった。鈴木氏は、イルカと人間の腎臓との違いについて説明する。
「イルカの腎臓は人間と同じくそらまめの形をしていますが、1つひとつが小さく、 300個ほどの集合体になっていて、見た目はだいぶ異なります。とはいえ、人間と基本的には機能は一緒なので、腎臓の専門家なら何か解決策を持っているかもしれないと、西山先生にチームに加わっていただきました」
西山氏は人間の腎臓病の専門家で、鈴木氏がアメリカに留学しているときに知り合った。以前からイルカに興味を持っていた西山氏はその後、たびたび鈴木氏とコンタクトを取るようになった。植田氏と鈴木氏の研究に協力するようになり、今から5年前にチームに加わった。
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