「イルカの難病」に挑んだチームが見つけた新事実 高齢化が進む飼育動物、「健康維持」が課題に

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西山氏は、2人から相談を受けた際のことを振り返る。

「2人からのお願いとなれば、迷わず行きましたよね。それにイルカのオキちゃんを一度目にしたらもう可愛くて。もう一度水族館に行って会いたかったし、なんとかしてあげたくてチームに参画しました」と、目尻を下げて語る。

なぜ研究拠点が沖縄だったのか

こうしてチームに西山氏を迎え、さらに香川大学や神戸大学、京都大学といった9つの研究機関と医療機関の研究者にもチームに入ってもらったことで、研究はさらに加速していく。沖縄美ら海水族館を舞台に、チームが腎臓疾患の原因を探っていった。

研究拠点はなぜ沖縄だったのか。それは、イルカが生育しやすい環境があり、水族館には豊富なデータが揃っているからである。

海に面した水族館は、水槽の海水の入れ替えが容易だ。海で確保した動物を治療することもできる。そこでとれた血液などのサンプルデータは貴重な研究材料となる。

研究拠点となった沖縄美ら海水族館(写真:国営沖縄記念公園(海洋博公園)沖縄美ら海水族館 提供)

データに関しても、植田氏は着任当時からイルカの血液値のデータとサンプルを20年分保存し続けており、これが今回の研究に大いに役立った。

「通常は、こんなたくさんのサンプル数を保管できる場所がない。仮に保管されていてもクオリティが良くないことが多い。ところがここにはクオリティが良く、20年以上のデータが保存されている。これを生かさない手はないのです。

血液サンプルは何月何日何時何分と、細かく時間指定をして定点的に採取されており、比較が容易になっています。ここまでていねいにサンプリングしている施設はそうはない」と、鈴木氏は熱意を込めて語る。

鈴木氏と西山氏は年に2~3回は植田氏がいる水族館に通い、実物のイルカに触れて確かめ、そのほかの時間は、死亡したイルカの細胞や血液などの保存サンプルを利用し、データ解析と実験を繰り返した。

迎えた2023年。ついにイルカの腎臓疾患の原因が見つかった。

石灰化したイルカの腎臓のCT画像。白い部分が石灰化した場所(画像:西山氏提供)

高齢化したイルカの腎臓にはリン酸カルシウムが蓄積し、石灰化を起こしている。これが腎臓の機能を低下させているという結果を、西山氏らが突き止めた。

「イルカの主食である魚にはリンが含まれています。リンは年々、体にたまっていく。このことは死亡した高齢イルカの腎臓から、リンでできた石や石灰化された組織が発見されたことによってわかりました」(西山氏)

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