「男性乳がん」知っておきたい遺伝性がんとの関係 専門の検査やカウンセリングが保険適用に
遺伝子検査でHBOCと診断されたら、新たながんの発症リスクを低減させるため、日本乳癌学会は『乳癌診療ガイドライン(2022)』で、予防的に反対側の健康な乳房の切除や、女性であれば卵巣・卵管の摘出を検討することを推奨している。
こちらも2020年4月より健康保険が適用となっている。
反対側の乳房を残す選択をしたとしても、年1回のMRI検査などの画像診断を健康保険で受けることも可能だ。
このほか治療に関しては、「HBOCの患者さんに発症したがんに効果が期待できるPARP(パープ)阻害薬のオラパリブが、進行・再発乳がんに対して、2018年7月から健康保険が使えるようになりました。また、オラパリブを術後に使うと再発率が低くなることがわかり、現在では術後に再発予防目的でも使われています」と大住医師。
このPARP阻害薬はその後、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんにも適用となり、卵巣がんには同じPARP阻害薬のニラパリブも、2020年9月から健康保険が使えるようになった。
HBOCの遺伝カウンセリング
こうしたHBOCに対しては、遺伝カウンセリングが始まっている。日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)によると、遺伝性乳癌卵巣癌総合診療基幹施設は現在、全国に64カ所ある。
大住医師が今年3月まで勤務していた四国がんセンターでは、2000年に全国にさきがけて「家族性腫瘍相談室」を開設した(2016年に「遺伝性がん診療科」に名称変更)。以来、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを通して、HBOCの診療体制構築に取り組んできた。
同科ではまた、HBOCと診断された患者だけでなく、その血縁者らのフォローを行っている。BRCA1、2の遺伝子変異は生まれつきのものなので、HBOCの患者の近親者も2分の1の確率で遺伝子変異を受け継いでいる可能性がある。
がんを発症してはいない遺伝子変異を受け継いでいる血縁者には、定期的な精密検査(造影乳房MRIなど)で早期発見に努める「サーベイランス」が始まっている。
このほかに、未発症者も予防的に乳房を切除する「リスク低減手術」も先述のガイドラインでは推奨しているが、大住医師によると「実際はほとんど行われていない」そうだ。その理由は、未発症者には健康保険が適用されないため、自費負担になることが大きいという。四国がんセンターの場合、両側の乳房切除と再建を行うと100万円以上かかるという。
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