海外の専門家が指摘「ジャニーズ騒動」本当の問題 「日本の文化の問題」として片付けていいのか

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もし日本に同じ法律があれば、喜多川による性加害を確実に知っていて、それを進んで隠していたことが判明した者――経営幹部や所属アーティストだけでなく、スポンサー企業の幹部も――訴えられたかもしれない。

もっとも、その場合も、ジャニー喜多川の性加害は公然の秘密であったため、こうした者のうち誰が刑事責任を負うのかを判断することは容易ではないだろう。かと言って、こうした関係者が道義的責任を免れるわけではない。

ファンには強い力があり、責任もある

スポンサー企業も、ジャニーズだけを責めるのではなく、自らを検証すべきである。元ネスレCEOの高岡浩三氏はスポニチアネックスの取材に対して、「クライアントサイドにいた私でさえ、ジャニー喜多川氏が元々性癖があってジャニーズ事務所を開設したという噂は、かれこれ20年以上前から噂として知っていた」と語っている。そうであれば、スポンサー企業も、この長年行われてきた多数の児童への性虐待について責任の一端があるのではないか。

今回のようなスキャンダルは、過去に他の民主主義国でも起きている。イギリスのジミー・サヴィル事件、アメリカのハーヴェイ・ワインスタイン事件とも、社会の大部分による「沈黙」が共犯となって起きた。だが、今回のような残虐な行為に対して、声を挙げる自由や権利が私たちにはある。

特に強い力を持ち、責任があるのはジャニーズファンだ。ファンは藤島や経営幹部たちの財産の源だ。ファンに今できることは、会社が正しい方向へ向かうことを求め、自分たちのアイドルが今後十分に保護され、活躍できる土壌を整えるように要求することではないだろうか。

「ジャニーズ事務所のスキャンダルが日本文化の結果だと言うのは簡単すぎる。アメリカでは、ワインスタインの事件が明るみに出るまで何年もかかった。権力の座を悪用する人は、どこの国にもいる」と、ニコレット・コスト・ド・セーブルは話す。

「いま重要なのは、日本社会の反応だ。外国企業が投資する国を検討するとき、そのような投資が会社の評判に良いのか、従業員はそこで保護されるのかなどと考える。日本がどう反応するか、世界中が注目している」

(敬称略)

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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