「保育園のM&A」活発化の裏にある"心配な事情" 「待機児童の減少」が引き起こす意外な事態

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認可保育園など公に認められる保育事業は、運営費の大半を人件費が占める。行政から支払われる運営費のうち基本的な人件費分だけでも8割を占める。そのなかで利益を残そうとすれば、人件費を削るしかない。

1990年代までは認可保育園の設置・運営は自治体か社会福祉法人にしか認められていなかったが、2000年に営利企業や宗教法人などへの参入が認められた。それと同時に、運営費の使途制限の規制緩和が行われ、本来は人件費に使う分が他に流用できるようになる「委託費の弾力運用」が認められた。

国は保育に必要な経費として人件費、事業費、管理費を見積もり、自治体を通して運営費の「委託費」が各認可保育園に支払われている。かつて「人件費は人件費に使う」という厳しい使途制限があったが、2000年に大幅緩和。一定の条件の下で、人件費、事業費、管理費の相互流用はもちろん、同一法人が運営する他の保育園や介護施設にも流用できるようになった。

ある程度の経営の自由度は必要だが、現在、委託費の年間収入のうち4分の1もの額を流用することが可能になっていることから、多額の人件費分が人件費以外に流用される実態がある。十分に人件費がかけられず、少ない人手で低賃金となれば保育士はバーンアウトしかねず、良い保育の実現には限界が生じる。

そうしたなか、人事院勧告で2023年の公務員の給与が引き上げられることになり、民間の認可保育園で働く保育士の給与も上がる予定だ。保育士の処遇改善につながるが、留意すべきは、「委託費の弾力運用」の構造を残したままでは、経営者にとって流用できる人件費の金額が増えることにもなる。

そもそも保育園は児童福祉法に基づいて設置・運営されており、保育園や幼稚園などの運営費だけでも年間に約1兆5000億円もの税金が投入されている。そして、国の「保育所保育指針」では、保育園の役割をこう定めている。

「保育所とは保育を必要とする子どもの保育を行い、その健全な心身の発達を図ることを目的とする児童福祉施設であり、入所する子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場でなければならない」

必要な保育士の人数が確保できず、相次ぐ不正

子どもの最善の利益を守るのは保育士であるが、必要な保育士の人数が確保できず、保育園側が虚偽の名簿を自治体に提出するという不正が相次いで起こっている。保育大手のグローバルキッズは本部関与の下、5年弱にわたり名簿偽造などによって運営費などを不正受給したことが昨年の夏に明るみになった。同社によれば、その金額の合計は約2200万円となった。特別指導検査を行った東京都の検査資料には「重大かつ悪質」と記されている。

今年8月には東京都目黒区の私立認可保育園「ピュアリー目黒南保育園」(運営は川崎市にあるフェイスフルラバーズ社)でも、保育士数の水増しなどによって3年間で約5500万円の不正受給を行っていたことを目黒区が公表したばかり。同社傘下の保育園がある川崎市も指導検査を行っている最中だ。

待機児童の増減に注目が集まるが、多額の税金を投入して保育園が運営される意味を考え、保育の質や保育園の運営事業者の質にも目を向けていかなければならないだろう。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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