「保育園のM&A」活発化の裏にある"心配な事情" 「待機児童の減少」が引き起こす意外な事態

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飯田さんの娘は、他の園児からのかみつき、ひっかき傷をしょっちゅう作っている。腕にくっきりとした歯型が残っていても担任からの報告はなく、園児同士のトラブルがあったのか経緯を聞くと「見ていませんでした」。対応策を考える様子もないという。

同じ保育園の3歳児クラスの子の保護者は、「先生が子どもを整列させようとして無理やり腕を引っ張り、子どもの肩が脱臼した」という。4歳児クラスの子の保護者からは「先生の指示通りに動かない子が『赤ちゃんクラスに戻りなさい』と言われて、無理やり抱きかかえられて乳児クラスに連れていかれた。それを嫌がった子どもが保育士の腕から落ちて身体を強く打ってしまった」と聞かされた。

園内ではそうした話題に事欠かず、娘は日々、登園を嫌がっている。飯田さんは「せっかく入った保育園だけど、子どもの安全を考えたら転園を考えたほうがいいかもしれない」と、悩んでいる。

増加する、認可保育園での事故

どの保育園もこうした問題含みというわけではなく、適切に運営されている園は多い。ただ、認可保育園での事故は実際に増加しており、どこの園でも安心できるかというとそうではなさそうだ。

内閣府の「教育・保育施設等における事故報告集計」を見ると、認可保育園で起こった「死亡及び負傷等の事故」は2015年の344件から2021年は1191件へと3倍以上に増えている。2021年は骨折が最多の937件で、意識不明の事故が8件、やけどが2件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等)が242件、死亡事故は2件だった。

ただ、この事故報告集計は、「治癒に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故」の場合に報告義務があることから、前述の飯田さんの保育園で起こったようなケースは含まれていない。

こうした背景に、筆者は待機児童解消のための保育園急増があると考えている。

安倍政権が待機児童対策を国の目玉政策にした2013年以降、「保育の受け皿整備を株式会社に担ってもらう」という方針が打ち出された。その結果、営利企業による保育園が急増。営利企業の認可保育園は2014年の723カ所から2021年は3151カ所に増えている。

ただ、志をもって保育を始めた事業者ばかりではなく、なかには時流に乗って”保育は儲かる”と参入した事業者も存在するのが現実だ。それは社会福祉法人も同じ。取材をする中で、利益重視で事業拡大を目指す社会福祉法人も現れており、それはこの10年の大きな特徴だと考えている。

複数の社会福祉法人の保育園の園長らが「法人の本部は利益重視。保育士の待遇が良いとも言えません。保育の内容の素晴らしさというより、各園の黒字額を競わされるようになりました」と疑問視する。そうした園では共通して「保育士の離職が多いことで保育士が育たず、子どもの安全が守られるか心配だ」という声も聞かれる。

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