本格インドカレー作りには「トマト缶」という幻想 トマトはどれを使えばいいのか稲田俊輔氏が解説
トマトの役割はもちろんうま味だけではありません。その酸味も重要です。トマトの爽やかな酸味は、トマトと並ぶ重要食材である玉ねぎの甘みや、肉類や油脂のコクを引き締め、カレーの味わいに奥行きを与えます。標準的なカレーにおいては、その酸味は隠し味的な存在感にとどまりますが、場合によっては大量のトマトを加えることで、その酸味をよりはっきりとした形で生かすこともあります。
インド料理ではトマトだけでなく、タマリンド、ヨーグルト、レモンなどの酸味もそこに加わることがあります。そういう鮮烈な酸味に、うま味やコク、そしてスパイスが加わった複雑な味わいを、インド英語では「tangy」と表現することがあります。それは料理の味を説明するうえで最上級の「褒め言葉」のひとつであり、そこにおいてトマトは欠かせない要素のひとつと言えるでしょう。
トマト缶やトマトピューレ…どれが正解?
現在、カレーの調理においてトマトを使用するにはいくつもの方法があります。すなわち、生のトマトだけでなく、トマト缶、トマトピューレ、トマトペースト、トマトジュースなどさまざまな加工品があるということです。歴史を遡ると、もちろんかつては生トマトしか使われていませんでした。
しかし近代以降に成立し、その後急激に発展した外食におけるインドレストラン料理の世界では、早い段階からこういった加工品が積極的に使われました。ちなみにこの近代的なレストラン料理の体系においては、トマト製品だけでなく、ほうれん草、マッシュルーム、マンゴーなどの缶詰製品が重要な役割を果たしており、そのことはインドレストランが世界中に進出していくことを容易にもしました。
ではそういったさまざまな選択肢の中で、結局カレー作りにはどれを使うのはベストなのでしょう。結論から言うと、それはケース・バイ・ケースです。最終的にどういう方向性のカレーに仕上げたいかによって、それは決まってくるのです。