本格インドカレー作りには「トマト缶」という幻想 トマトはどれを使えばいいのか稲田俊輔氏が解説
生のトマトは、短時間の調理で素材の持ち味を生かす、シンプルでフレッシュなタイプのカレーに向いています。逆にトマトピューレは、比較的長時間じっくり煮込んで、複雑でコクのある味わいを目指すカレーに適しています。
なぜならばピューレというのは製品の時点ですでにじっくり煮詰められており、そこには最初からまろやかなコクが備わっているからです。これは逆に言うと、カレーを短時間で調理する場合でも、じっくり長く煮込んだかのようなコクを付与することも可能ということでもあります。
トマトジュースとトマトペーストは、基本的にトマトピューレと同じと考えておいてください。厳密に言えば多少の風味の違いはあるのですが、トマトペーストを水で2倍に伸ばすとトマトピューレになり、それをさらに水で3倍に希釈したものがトマトジュース、といったん理解しておくといいと思います。
さて、「フレッシュ感の生トマト」、「コクのトマトピューレ」、ときたときに、ホールトマトやカットトマトなどのいわゆる「トマト缶」はどういう位置付けなのでしょうか。簡単に言うと、トマト缶は生トマトとピューレの中間です。悪く言えば「どっちつかず」ですが、両方の代用ともなり得て「汎用性が高い」とも言えます。
ただし、トマト缶には少し独特のクセと強い酸味があるのが難点です。もちろんその特徴を把握してうまく使えばおいしいカレーは作れますが、どんなカレーにも合う、というわけにはいかないのです。使いやすいけど実は少々難易度の高い食材とも言えます。
トマトの重要性をわかりやすく感じられるカレーレシピ
では最後に、インドカレーにおけるトマトの重要性をわかりやすく感じることができる、シンプルなレシピを『「エリックサウス」稲田俊輔のおいしい理由。インドカレーのきほん、完全レシピ 』からご紹介しておきましょう。
このチキンカレーは炒めるのも煮込むのも短時間で、素材のフレッシュ感をそのまま生かして作る、言わばインドの家庭料理的なカレーと言えます。ということで、そういったタイプのカレーに最もよく馴染む、生トマトを使用しています。トマトは煮込みの工程でほぼ煮崩れて、サラサラなグレイヴィーにうま味と酸味を放出しつつ、わずかに形の残ったそれ自体が、食べるときのアクセントにもなります。