デイサービスなのに「介護しない」利用者の本音 やりたいことに耳を傾け実現のサポートをする

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次々と新たな挑戦をし続ける同社だが、設立当初は苦難の連続だったという。

「まず、既存のデイサービスと介護に対する考え方やあり方が根本的に異なるため、その点をスタッフに理解してもらうことに苦労した」と池田さん。

特に介護業界での経験が長く、決められたルーティーンの中で高齢者と接してきた人は、そのスタイルになかなか慣れず、辞めていく人もいたという。

「弊社の介護職員は、利用者さんたちの発揮どころをつくるプロデューサーであり、楽しませて気持ちを乗せるエンターテイナーだと捉えています。最初は元気がなくて、『私(俺)はいいよ』と何事もあきらめがちだった人も、その気にさせて主役にしてしまう。そうしたことを自ら楽しんで取り組める人が長く活躍してくれているように思います」

また、つねに活気のある「まる」でも、利用者の集客に苦労しなかったわけではない。事業スタイルがユニークで独自性があるあまり、「もともと元気で意欲が高い高齢者じゃないと入れないのでは?」という印象を持たれてしまうからだ。

特に地域のケアマネジャーたちに、“ハードルが高い”印象を持たれてしまうと、通所介護を希望する高齢者やその家族に気軽に紹介してもらう機会が減ってしまう。

「設立して10年近く経った今も、まだまだそうしたイメージを持たれてしまうこともあるので、地域への理解を広げていく努力は欠かせません」

新時代の介護形態「働くデイサービス」

利用者のさまざまな要望を叶える中でたどり着いた一つの形が、仕事に特化した共生型のデイサービス「無添加お弁当二重まる一番町」だ。

この事業は、高齢者や障がい者が、「介護の受け手側」になるのではなく、「働いて与える側」になることで社会とつながり、生きる喜びを得るためのユニークな取り組みだ。

介護業界では、こうした“利用者自身が働く”デイサービスがここ数年で増えてきている。続く後編(8月14日公開)では、同施設に焦点を当てながら、「働くデイサービス」の実態をリポートする。

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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