デイサービスなのに「介護しない」利用者の本音 やりたいことに耳を傾け実現のサポートをする
まずは、アウトドア用の椅子に腰をかけて、水分補給から。ゆるゆると、高齢者たちが立ち上がって、草むしりを始めた。
「おらも、草むしり、やりたくなってきたな」
そうつぶやく、ある利用者は自力での歩行が難しいが、動きたくて仕方ない様子だ。それに気づいた介護職員が、さっと彼女に寄り添う。肩を支え、一緒に歩きながら、草むしりのサポートをした。
ここでは介護らしい介護はしない。利用者を施設の中に閉じ込めず、自然と「何かをやってみたくなる」ような舞台をつくる。それが「まる」の特徴でもある。
介護ありきではなく、その人ありきの支援
デイサービスと言えば、食事や入浴介助のほか、利用者全員で塗り絵や折り紙をしたり、ボール遊びやカラオケをしたりするなど、リハビリ要素を盛り込んだレクリエーションを行うのが一般的だ。
いわば、お遊戯のようにも見える「介護レク」を皆で一斉に行う。確かにそれは身体機能の向上や脳の活性化を図るためにつくられたプログラムなのかもしれない。
だが、当の高齢者たちは、本当にそれがやりたくてやっているのか、筆者自身、疑問を感じていたのも事実だ。
それだけに、「まる」の現場は、衝撃だった。画一的なプログラムはいっさい行わず、「釣りが趣味だ」と言う利用者がいれば、「釣り」を行事に加え、「りんご狩りに行きたい」と望む利用者がいれば、「りんご狩り」を予定に入れる。農園での畑仕事も、かつて農業に携わっていた利用者の希望で始めたものだ。
一人ひとりの好きなことややりたいことに耳を傾け、職員が実現のサポートを行う。「脱ルーティーン」がモットーだけに、月曜から土曜までバラエティに富んだ行事が並ぶ。
「介護ありきではなく、その人ありき。それが弊社の根本姿勢なんです」
同施設を運営する池田介護研究所・代表取締役の池田右文さんは、独自の理念についてそう語る。
「手厚く、丁寧な介護を行っている施設が、その方にとって本当に良い施設とは限りません。そこに『ご本人の意思や望み』が抜けていたら意味がないな、と僕は思うんです。ご本人の意思なく、ただただ受け身で提供されるものをやり続けていたら、何のために生きているのかわからなくなりますし、心身は衰える一方で良くなりようがないと思うのです」(池田さん)
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