「インバヤー」が行われるのはフィリピン最大の島、ルソン島の北部にあるイフガオ州バナウェ町。棚田のあるような山間部なので当然空港はなく、首都マニラからは夜行バスで約10時間かかる。祭りは9日間ぶっ続けて行われるが、観光客に公開されているのは5日間のみだ。
では、さっそく奇祭インバヤーで数あるメインイベントの1つ、「パレード」について紹介しよう。
インバヤーは収穫祭である。周辺の村人たちは赤や黒を基調とした伝統衣装に身を包み、村ごとに隊列を組んで順番にバナウェ町のメインストリートを練り歩く。古老たちは家に伝わる米の神様の像「ブロル」を持ち出してパレードに参加する。このあたりは村ごとや集落ごとに山車や神輿を中心にして隊列を組む日本の祭りと似ている。
男たちは木製の槍やゴング(銅鑼)を持ち、頭には大きな羽根やくちばしで作った髪飾りをかぶる。なかには猿や猪、そしてこんな山奥のどこで手に入れたのか不思議だが、ワニの頭蓋骨を冠のようにかぶっている猛者もいる。そのあたりの荒々しさは「元」とはいえ、さすが「首狩り族」だ。
一方、女性たちの伝統衣装はというと、刺繍の入った白い上着に赤い伝統織物の腰布からなる。頭には野菜や籾米などの収穫物を入れたザルを載せている人が多い。
青年の多くは、豚の木彫りの置物に本物の豚のシッポだけを巻いたものを肩に担いでいる。この地域では、儀礼の際によく子豚を生贄とし、村の人にふるまわれる。木彫りの置物もまた豊穣を感謝するためのものだ。
ブレーキなしの坂道下りレース
この祭りのもう1つのハイライトは、木製スクーターによる「坂道下りレース」だ。イフガオの人々は、木彫り技術の高さでよく知られている。祈祷で使う道具や米の神様の像、一族の権威の象徴とされる巨大な木製テーブルやイス、そして木製スクーターなどを、切り出した1本の材木からうまく作り上げている。
木製スクーターは坂道で薪などを早く運べるように使っているもので、動力も、ブレーキも、ペダルもない。また、日本でもよく子どもがバランス感覚を身につけるため、親から自転車に乗る練習を手伝ってもらうが、ここの子どもたちも坂道で木製スクーターに乗る練習をしているのをよくみかける。子どもの成長に欠かせないおもちゃでもあるのだ。
インバヤーで行われる木製スクーターによるレースはかなりスリリング。入賞者には賞金も出るとあって、参加する民族衣装を着けた男たちは開始前から競争相手をにらみつけるなど、やる気満々だ。
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