WBCが提示した野球の魅力、世界への浸透に光 第6回大会に向けてメディアが果たすべき役割

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今やインターネットメディアの普及により、スポーツはテレビやラジオで観戦するものという常識は過去のものとなった。それだけに、視聴率、聴取率とも高い結果を残したWBCは、放送界にとってこれまで以上に重要な話題となるだろう。また、速報性という点に強みを持つインターネットメディアは、特にテレビやラジオを利用できない状況にあった人たちに対して、自らの特徴の価値を証明できた。

それではテレビ、ラジオ、あるいはインターネットメディアは今後野球をどのように位置づけ、扱うことになるだろうか。

第一に、試合の実況を行いつつ、選手の来歴や家族の話題などを適宜紹介する従来の方法の踏襲が考えられる。これは、長年の蓄積のある手法だけに、容易に行える取り組みである。

第二に、WBCはMLB機構と同選手会の主催ということもあり、放送に際して提供される情報が米国の仕様となり、日本のプロ野球では扱っていない項目が含まれていた点に注目したい。現在のMLBでは同機構が主導して各種の情報の収集と整備が進み、バットを振った際のスピードや打球の飛距離などのデータが、実況のなかでふんだんに盛り込まれている。

日本でも各球団がこうした情報を収集してはいるものの、実際の中継で活用される場面は限られている。その一方でWBCの中継を視聴、聴取した観客にとって、さまざまな情報は試合をよりよく楽しむために大きな役割を果たした。

これからの3年間で放送界を取り巻く状況も、球界の情報収集能力も大きく変わるだろう。したがって、放送界に求められるのは、米国側から提供される情報だけでなく、自らの努力によって新たな情報を獲得し、視聴者や聴取者によりよい放送を行うという意識と具体的な行動ということになる。

おわりに

WBCが終わり、野球は再び日常のさまざまな話題のなかの一つに戻った。しかし、目の前の対戦相手に挑戦し、勝利を目指して全力を出す選手たちの姿が、人々の関心を引きつけることに変わりはない。むしろ、先行きの見えない時代だからこそ、WBCがわれわれに明日への明るい展望を示したと言えるだろう。

球界にとっても、テレビやラジオ、インターネットメディアはその活躍をより多くの人たちに伝える重要な手段であり、後者にとって前者は重要なコンテンツである。

もしこの3年間で両者がともに成長するなら、その相乗効果の最大の恩恵を受けるのは、一人ひとりの視聴者、聴取者、利用者なのだ。

鈴村 裕輔 名城大学外国語学部准教授/野球史研究家

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すずむら ゆうすけ / Yusuke Suzumura

1976年東京都生まれ。法政大学博士(学術)。専門は比較思想、政治史、比較文化。野球史研究家として日米の野球の研究に従事し、『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社)などの著作がある。テレビ、ラジオ、新聞、インターネットメディアなどへの出演や寄稿によりスポーツを取り巻くさまざまな出来事を社会、文化、政治などの多角的な視点から分析している。野球文化學會会長、アメリカ野球学会会員。
 

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