WBCが提示した野球の魅力、世界への浸透に光 第6回大会に向けてメディアが果たすべき役割

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それとともに、WBCを野球の普及の一助にしたいという関係者の思惑は見逃せない。

新たな国際大会が話題となり始めた90年代末は、MLB機構の世界戦略が検討から実行の段階へと移行し始めた時期でもあった。

当時の米国球界は、選手の供給源としての中南米の存在が不可欠になるとともに、北米圏以外では世界最大の市場であった日本を新たな選手の獲得先にした。これに加え、韓国の朴賛浩、台湾の王建民といった選手たちの活躍によって、韓国と台湾もMLBの重要な顧客となっている。

一連の展開は、それまで関係者が十分な注意を向けてこなかった地域も、球界にとって重要な存在になり得ることを意味した。そして、日韓台に続く次なる開拓地を見出すことがMLBにとって急務となったのである。

特にMLB機構が中心となり、07年に上海や天津など5都市で行った野球の普及策“MLB Play Ball!”が不首尾に終わったことは、大きな転機となった。

当時はNBAで姚明が活躍し、中国の人々にとって最も親しいスポーツがバスケットボールであったという、野球に不利な状況があった。そして、世界最大の人口を有し、経済成長も著しかった中国に本格的に進出できなかったことで、球界は欧州に注目することになる。

今回のWBCで初出場ながら中国代表に勝利したチェコは、欧州における野球の普及の大きな成果の一つである。

89年のベルリンの壁の崩壊とその後の冷戦の終結を契機として野球が本格的に行われるようになったチェコは、93年にチェコ・エクストラリーガが創設されたことで普及の第一歩を踏み出す。

旧チェコスロヴァキア出身のパベル・ブディスキーがMLBモントリオール・エクスポズ(当時)とマイナー契約を結び、チェコ人として初めて北米プロ球界の一員となったのが97年であった。そして、国内リーグの地道な活動を目にした若者が野球に興味を持ち、MLBで学んだ指導者たちが体系的な指導を行うことで、今やWBCはチェコ野球が目指すべき最大の目標となったのである。

今大会では消防士や教師が代表選手となっていることが話題となったチェコ代表は、大会関係者が掲げて来た「WBCは野球の普及のため」という戦略の正しさを証明したと言える。

2.日本代表と他国の代表選手の報じられ方

スポーツにおいては競技が最大の魅力を持っており、報道や実況は副次的な地位にとどまる。しかし、優れた実況は試合の様子をより生き生きと描き出すし、洗練された報道は競技の魅力を一層高める。そのような視点で今回のWBCを眺めるとどうなるだろうか。

日本の報道機関であるから、日本代表について着目し、集中的に報道することは当然である。そして、日本代表の中心選手であり、大会MVPとなった大谷翔平が報道の中心となることも自然な対応だ。

そして、今大会で最も知名度を向上させたのはラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)であることも多くの読者が同意するだろう。当初、ヌートバーは日本球界を経験しない選手として初めてWBC日本代表に選出されたことと、日系米国人である点が注目された。

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