国立市を「住みやすい町」にした重度障害者の「声」 フルインクルーシブで「分けない教育」目指す

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この制度では、地域の介護力を活用するため介護の資格は問わず、たとえ、その日に知り合った人であっても、当事者に介護の方法を教えてもらい、その通り実践していけばよいことにした。

介護者不足が深刻な中、この制度は当事者にとって大変重宝している。その人件費も、当初は国立市が全額負担していたが、2007年からは東京都が半分を負担するようになった。

上村議員は「この取り組みが全国で導入されたら、国の障害福祉サービスで介護者が不足する夜間などの時間を補うことができるのではないか」と提案する。

住民に心のバリアがない地域へ

これらの施策の基盤は、「ソーシャル・インクルージョン」の考え方に基づく。ソーシャル・インクルージョンは、上村議員が当時環境省大臣官房長(後の環境庁事務次官)だった炭谷茂さん(恩賜財団済生会理事長)の著書を読んで知り、国立市議会で広めた。

「炭谷さんが『行政は人権を基本に据えなければいけない。人権行政によって、1人も取り残さないソーシャル・インクルージョンの町は確立する』と話していた。それを国立市に根付かせようとしたのです」

このように、国立市では障害のある人の声を市議会議員と市役所職員が受け止め、信頼で結ばれたトライアングルの絆で時間をかけて「重度の障害があっても住みやすい町」を作ってきた。

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さらに「障害のある人にとって住みやすい町」は、生活を支える制度の整備だけでは作れない。前出の木村議員は、こう強調する。

「障害者が住みやすい町とは、住民同士の心のバリアがないことだと思います。障害の有無で分けることが、差別を生み出す根源です。幼い時からあらゆる場面において分けないことで関係性ができるため、自然と一緒にいるための工夫も考えられるようになります。そのためには、フルインクルーシブ教育の環境を作ることが必要です」

障害のある人の暮らしが町の中で見えて、お互いに関わりを持つことで、初めて住民それぞれが他人ごとでなく、友人ごととして意識を変えていくことにつながるからだ。

JR国立駅の改札口を出たビルにあるスターバックスコーヒーnonowa国立店。聴覚に障害のあるパートナー(従業員)と聴者のパートナーが手話をコミュニケーションツールとする。店内では指文字で表現したサインが象徴的にデザインされている(写真:スターバックスコーヒージャパン株式会社提供)


*1、2 UNESCO 2009
*3 一木玲子他「障害者権利条約一般的意見第4号(わかりやすい版)インクルーシブ教
育を受ける権利」『季刊福祉労働』(171巻)、現代書館、2021年、34-43ページ Committee on the Rights of Persons with Disabilities. Article 24 The right to inclusive education (Plain version). General Comment No.4.2016
*4 2007年、文科省が特別支援教育を導入したことをきっかけに、現在では一部の地域を除いて、養護学校から特別支援学校、支援学校に学校名が変更された
*5 「しょうがいしゃがあたりまえに暮らすまち宣言」(2005年)

福原 麻希 医療ジャーナリスト

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ふくはら まき / Maki Fukuhara

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)修了(システムデザイン・マネジメント学修士)。週刊誌記者を経て独立し、医療・健康・介護に関する記事を雑誌やインターネットサイト、単行本で執筆。著書に『がん闘病とコメディカル』(講談社)、『チーム医療を成功させる10か条-現場に学ぶチームメンバーの心得-』(中山書店)で「チーム医療」に関する研究で講演多数。スペイン語絵本翻訳『きみは太陽のようにきれいだよ』(童話屋)、介護福祉士の資格も。ホームページhttps://makifukuhara.com/ 得意な料理は茶碗蒸し。

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