日本の最低賃金「欧米レベル」になれない5大原因 国際標準並みに高くなる日はやってくるのか

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ちなみに、連合が7月5日に発表した2023年の春闘の最終集計によれば、定期昇給込みの平均賃上げ率は「+3.58%」、賃金の内訳を明示している組合のベースアップ率の平均は「+2.12%」だった。大手企業の労働組合による平均賃上げ率が2~3%台だとしても、実質賃金がマイナスということは、それを上回るインフレ率があったことになる。庶民にとっては厳しい日常が続いていることになる。

OECDの雇用見通しにもあったが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないために、今後も激しいインフレに賃金の上昇が追いつかない可能性が高い。30年近くインフレの経験がないために、雇用者もそう簡単には賃金を上げようとしない。

問題はこれからどうなるかだが、日本の賃金が一向に上がらない理由をきちんと整理する必要があるだろう。大きく分けて、次のような理由が考えられる。

日本の賃金が一向に上がらない5つの理由

①政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと

正規、非正規の従業員の賃金が上がるためには、どうしても最低賃金の底上げが必要だが、日本では長い間、政府が複雑な最低賃金の制度を維持して、最低賃金を押さえつけてきた歴史がある。

地域間格差を容認する地域別の最低賃金制度や、審議会を経て最低賃金を決定する複雑なプロセスが、その上昇を意図的に抑えてきた。消費者物価や企業収益、雇用情勢、春の賃上げ率といった厚生労働省から提供されたデータを用いて、経営側と労働側が調整して金額を決めるという曖昧な方法をとってきた。

しかし、国際的には統一した最低賃金が当たり前であり、フランスやポーランドのように物価上昇と最低賃金上昇率が連動している国もある。欧州連合(EU)のように最低賃金は「平均賃金の60%」を目指すように、加盟国に制度設計を求めているところもある。2022年に成立した「最低賃金引上げ法」によるものだが、明確な水準を示したことで、政府と労働者との間の信頼関係が深まったとされる。

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