地味な銀行を「Tech企業に作り変えた」CEOの執念 「世界最高のデジタル銀行」DBSのすごい大変革

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もう1つの取組みは、ダッシュボードの構築だった。経営層や部門長が、部下が作成した定期的な報告を見るのではなく、意思決定に必要なデータを自動で収集して集約・加工し、リアルタイムで表示するダッシュボードによって状況や問題点を把握する。これにより、データやファクトに基づいた問題の検知と対応が行われるようになった。

その他にも分析チームは、銀行全体で発せられる月次報告数を調べた上で、全ての報告発信をストップし、そのことを尋ねてくる者がいるかを待ってみた。そして要求がなかった報告は廃止した。いっぽうで、職員がデータ抽出とレポート作成ができるよう、ワークショップを開催して教育を行った。

E:試行し、リスクをとること

金融機関は、リスクをとることに慎重だ。それは、中核である融資ビジネスでは貸し倒れ(=融資元本喪失)の業績ダメージが非常に大きいため、極力そのリスクを排除しようとすることに由来しているとみられる。

しかし、変化の速い時代には、素早く動いて小さく試し、早く失敗して次の機会に向かうことの繰り返しが必要となる。変化の方向を慎重に見定めてから動くと機会を逸してしまうことが少なくない。失敗への怖れがイノベーションを阻害するのだ。

DBSではまず、直近に実現した成功について職員に責任を負わせないこととした。成功に拘ることが自らを保守的にしてしまうからだ。

さらに、「よくチャレンジしたで賞(Dare to Fail Award)」を設けた。試行段階で早期の成功を達成した人を認め、職員にアイデアの創発を促すものだ。CEOのグプタは社員集会の場で表彰を行うとともに、2~3ヶ月毎に事例を紹介している。受賞率は全体の約10%程度に上る。こうした取り組みを通じて、失敗を恐れずリスクをとれる環境を広げようとしている。ここでも心理的安全性がカギとなる。

「デジタルの口紅を纏うだけでは十分ではない」とCEOのグプタは言う。

顧客から見える表面上の仕組みだけをデジタル対応しても、それでDXは終わらない。デジタルの時代に対応したビジネスモデルを構築し、環境変化に機敏に対応し続けられる組織文化を築くことが、真のトランスフォーメーションの実現につながるのだ。

上野 博 NTTデータ経営研究所 金融政策コンサルティングユニット エグゼクティブスペシャリスト

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うえの ひろし / Hiroshi Ueno

住友銀行、日本総合研究所、フューチャーシステムコンサルティング、マーケティング・エクセレンス、日本IBMを経て現職。金融サービス業界を中心に、経営・事業戦略/新規事業開発/業務改革/マーケティング/テクノロジー活用等に関するコンサルティング/発信/提言活動を活発に実施。ブレット・キングの前著『Bank 3.0』(邦題『脱・店舗化するリテール金融戦略』東洋経済新報社)を翻訳。

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