豪州、先住民300人が住む「トレス海峡諸島」の世界 電気が通ったのは30年前、石灰石が照明代わり

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電気のようにほんの数分で適温になるわけではなく、時間がかかる。我々とスタッフを合わせた全員分の食材を焼くので、途中で何度も枯れ枝をくべ直さなければならない。風向きが変わるたびに風上に逃げなければならないのだが、個人的にはこれぞバーベキューという気がする。

炎と煙と格闘することおよそ2時間。ようやく全員分のロブスターとタイガープロウン(クルマエビ)を焼き上げることができた。

後者はガーリックバターで味付けされていたが、前者は味付けなし。せっかくの高級食材だ。しょうゆとわさびがあったらむしろ刺身で食べたいと思ったが、塩を少々振っただけでもおいしかった。

食後には子どもたちも加わり、島の伝統的な歌を披露してくれた。

小さな島に迫りくる問題

翌朝はまたビーチの掘っ建て小屋に移動。参加者の何人かは島の女性から「ヤシの葉のかご作り」を習っていた。

道中の写真撮影で到着が遅れた私。ほかの参加者たちが悪戦苦闘しているのを見て、参加を早々に諦め、フレイザーに銛(もり)でのロブスター漁の仕方を実演してもらった。筆者もやってみたが、この長さの銛は意外に重く、狙った位置に突き刺すのはかなり難しい。

「そういえば、昔はこのビーチにも家があったんだけど、今は建てられない。なぜだと思う?」

唐突にフレイザーが聞いてきた。少し考えたら正解は見つかった。トレス海峡諸島もほかの島々と同様、地球温暖化によって海面上昇が始まっている。砂浜のそばでは嵐が来たとき、家の中に波が入ってしまうのだ。

海面の上昇により存在が脅かされる国としてはツバルが有名だが、サンゴの細かなかけらが砂となって積み重なってできたマシッグ島もほぼ平らな小さい島。海面が1メートル上がれば島の面積の何パーセントかは確実に消失してしまう。島の人たちにとって地球温暖化はさざ波のように目立ちはしないが、じわじわと確実に押し寄せる危機だ。

ビーチからののどかな風景。失われたくない光景だ(写真:筆者撮影)

トレス海峡諸島民の推定人口は約4万人。有名な先住民アボリジナルの20分の1ほどだ。オーストラリア全人口約2540万人中0.2%にしかならない。だから、まずはその存在を知ってもらうことが大事なのではないか。

だから最後にもう一度。オーストラリアにはアボリジナルとは別の、もう1つの先住民がいる。彼らの名を「トレス諸島海峡島民」という。

柳沢 有紀夫 海外書き人クラブ主宰 オーストラリア在住国際比較文化ジャーナリスト

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やなぎさわ ゆきお / Yukio Yanagisawa

世界100か国350人以上のメンバーを誇る現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。会員たちとともに新潮文庫や朝日新書、角川つばさ文庫での共同執筆、「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)、「ちゃぐりん」(家の光協会)、「サライ.jp」「BE-PAL」「@DIME」(いずれも小学館)、「日刊SPA!」「女子SPA!」(いずれも扶桑社)などでリレー連載などを手掛ける自称「世界を股にかけた世話焼きオジサン」。慶應義塾大学文学部人間科学専攻。オーストラリア・ブリスベン在住。

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