ソニーが金融事業「分離・再上場」に秘めた思惑 完全子会社から3年足らずで「手のひら返し」

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銀行や保険会社は法律で一定の準備金を用意しておくことが常に求められており、自己資本を急激に減らしてROEを改善することは難しい。かといって、生命保険や自動車保険、住宅ローンといった積み上げ型のビジネスモデルでは収益を急激に拡大することもできない。命綱だったはずの金融事業が、ソニー復活で相対的に”重荷”となっている。

十時社長は説明会で「金融事業の中長期的な成長には投資が必要で(上場後は)独自の資金調達能力が手に入る」とする一方で、「イメージセンサーやエンターテインメントではこれまでと次元の違う投資が必要」とも指摘している。

パーシャル・スピンオフで金融事業の持ち分比率が2割未満まで下がればバランスシートが分離され、グループ全体のROE改善も期待できる。それだけに一連の発言からは、グループ全体の最適な資本配分を考えると、安定収益源としての必要性が低下し、相対的に資本効率の低い金融事業をスピンオフすることにした。そうした経営サイドの意図が透ける。

再上場に向けて社長交代でテコ入れ

スピンオフ・再上場へ向けた準備は着々と進んでいる。

まず、6月23日にソニーFGと傘下の3社で社長交代を実施。ソニーFGとソニーフィナンシャルベンチャーズの社長には元金融庁長官の遠藤俊英氏が就くほか、ソニー生命とソニー損保の社長も交代する。

金融庁の長官経験者が金融機関の社長になるという異例の人事に、金融業界からは「とんでもない天下り人事だ」(メガバンク関係者)といぶかしむ声が絶えない。

再上場に向けた審査では証券会社や取引所、金融庁など関係各所との調整が必要になる。許認可が必要となるさまざまな局面で、元金融庁長官という”錦の御旗”は効果絶大だろう。

5月24日、25日と2日間かけて行われたソニーの事業説明会では、金融事業だけ「後日別途開催」として説明がなかった。社長交代後に改めて今後の成長に向けたビジョンを示すものとみられている。

この10年間でソニーの業績は急回復を遂げ、時価総額は17兆円に達した。どん底だった2013年の株価から10倍以上へ拡大し、まさに様変わりといえる。さらなる成長を目指すために金融事業をスピンオフし、ソニー本体と別会社としての道を歩むことになる。

金融事業の非上場化からわずか3年で再上場を決め、トップ人事を含めて異例づくしの戦略を打ち出す十時ソニー。次の一手に注目が集まっている。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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