ソニーが金融事業「分離・再上場」に秘めた思惑 完全子会社から3年足らずで「手のひら返し」

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金融事業の誕生は1979年(昭和54年)までさかのぼる。アメリカの保険会社、プルデンシャルとの合弁で「ソニー・プルーデンシャル生命保険株式会社」を設立したのが始まりだ。創業者の1人である、盛田昭夫氏肝煎りの事業だった。

その後、プルデンシャルとの合弁は解消し、1998年に現・ソニー損害保険を設立。2001年には現社長の十時氏が、社内ベンチャーの創業者の1人としてソニー銀行を設立している。2007年にはソニーフィナンシャルホールディングスとして当時の東証1部に上場を果たした。

振り返ってみると、ソニー全体の営業利益が赤字転落の危機に陥るたび、金融事業に救われてきた。テレビ事業などのエレキ部門が大赤字を垂れ流していた2012年度や2013年度はその傾向が顕著で、金融事業がなければ1000億円超の連続営業赤字に陥っていたはずだった。

生命保険や損害保険、住宅ローンを中心とした銀行が毎年1500億円程度の営業利益を安定的に稼ぎ出してくれることで、営業利益の黒字をかろうじて保っていたといえる。まさに「命綱」だった。

薄まる金融事業の存在感

ただ、近年は金融事業以外のゲームや音楽、映画といった事業セグメントの収益が安定してきた。とくに音楽の分野ではサブスク利用者が増加したことなどで、2022年度のセグメント営業利益は2600億円に到達。版権ビジネスの収益が安定的に寄与している。

営業利益で1兆2000億円を稼ぎ出すグループ全体からみて、金融事業の存在感は低下している。

投入した資本に対して、どれだけの利益を上げられたかを測るROE(自己資本利益率)でみると、存在感の希薄化はさらに顕著だ。直近2022年度はソニー生命が不動産の売却益や、過去に子会社で発生した不正送金の資金回収などで約500億円を特別利益として計上し、ROEが跳ね上がった。

メガバンクなど大手金融機関のROEが7%前後であることを考えると、ソニーの金融事業は善戦してきたといえるかもしれない。ただ、グループ全体で求められている水準まで資本効率を高めるのは容易ではない。

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