がん免疫療法「掟破り」臨床試験に研究者が挑む訳 背景にある問題「ライバル社の薬とは比べない」

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ここまではメルクのほうが優勢だ。日本国内での売り上げは、オプジーボ1524億円に対しキイトルーダ1283億円(ともに2022年)と、小野薬品が上回るが、世界での売り上げは、オプジーボが93億ドルに対して、キイトルーダは196億ドル(2021年)と、大きく水を空けられている。

これは致し方ないだろう。前述したように、オプジーボは2014年7月に世界に先駆けて日本で承認された。ただ、アメリカで承認されたのは同年12月。キイトルーダのアメリカ承認(同年9月)から3カ月遅れである。

これは小野薬品・BMS連合とメルクの製薬企業の「臨床開発力」の差といっていい。メルクは、ファイザーやジョンソン・エンド・ジョンソンなどと並び、アメリカを代表する製薬企業で、2022年の世界での売り上げは593億ドル。BMSと小野薬品の合計494億ドルを大きく上回る。

キイトルーダに対抗するため小野薬品・BMS連合が選択したのは、作用機序が異なる免疫チェックポイント阻害剤ヤーボイの併用だ。ヤーボイは小野薬品・BMSが開発した薬で、日本では2015年7月に承認されている。

小野薬品・BMS連合は、積極的に臨床研究を進めた。昨年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)総会では、抗がん剤とオプジーボ・ヤーボイを併用した進行肺がん患者の3年生存率は27%で、抗がん剤単独の19%を上回ったと報告している。

ASCOは、抗がん剤治療の領域で世界で最も権威ある学会であり、その場で従来の抗がん剤治療にヤーボイとオプジーボを追加することで、生存率が8%も改善したことを示したことは大きい。

ここで注目すべきは、小野薬品・BMS連合は、比較対照群に従来型の抗がん剤治療を選んで、ライバル薬であるキイトルーダを選択していないことだ。その理由は前述した。

ライバル薬の比較試験は掟破り

JCOGがライバル薬同士の比較に取り組んだのは、その意味で業界の掟破りといっていい。ただ、JCOGは今回の試験を「NIPPON試験」と名付けている。本音はヤーボイを追加し、キイトルーダより有効であることを示すことで、小野薬品を応援したかったのだろう。このあたりの気持ちは、同じ日本人として痛いほどわかる。

ところが、結果はJCOGの研究者の期待とは真逆だった。オプジーボにヤーボイを併用したら、がん免疫だけでなく、自己免疫も強化されて副作用が強く出てしまったのだ。11人も副作用で亡くなられてしまったのだから、ただごとではない。

もちろん、ある製薬企業社員によると、「副作用の扱いに長けた医師が担当した場合、オプジーボとヤーボイを併用しても問題ない可能性は十分にある」という。その場合、がんに対する免疫作用が強いぶん、効果が期待できるだろう。

ただ、今回の臨床試験中止は多くのマスメディアでも報じられたため、医師はもちろん、多くの患者がオプジーボとヤーボイの併用を躊躇すると思われる。さらには、「お医者さんたちが勝手に臨床試験を実施し、自社のドル箱の薬の信頼を毀損したのだから、小野薬品にとってはたまったものではない(前出の製薬企業社員)」という見方もある。

しかし、経緯はどうであれ、日本で「掟破り」の臨床試験が実施され、国内メーカーにとって不利な結果になってもそれを発表したことを、私は高く評価したい。この事実は、製薬企業の利益やナショナリズムではなく、医学的合理性と、患者の利益を優先する精神が健在であることを示しているからだ。この精神がある限り、今後も日本ががん免疫療法の世界をリードするはずだ。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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