がん免疫療法「掟破り」臨床試験に研究者が挑む訳 背景にある問題「ライバル社の薬とは比べない」

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日進月歩のがん免疫療法。その最新事情と日本人の活躍について紹介します(写真:ko-yan/PIXTA)

「何とかならないでしょうか」

進行がんを患う患者や家族から、しばしば、このような相談を受ける。がん細胞が全身に転移し、主治医から緩和医療を勧められた患者が期待するのは、免疫療法だ。

免疫療法は日進月歩だ。5月10日には、権威あるイギリス『ネイチャー』誌が、ドイツのビオンテックとスイスのロシュが共同開発している膵臓がんに対するmRNA治療の第1相臨床試験の結果を掲載した。

最先端「mRNA治療」とは?

この治療は、がん細胞のゲノム配列をすべて解読し、正常細胞には存在せず、がん細胞にだけ存在する遺伝子の突然変異を見つけて、そのような配列に適合するmRNAを合成し、患者に投与するというもの。投与されたmRNAは正常細胞には存在せず、がん細胞だけが発現する抗原(ネオ抗原)を作り出し、免疫反応を誘導する。究極のがん免疫療法というわけだ。

この治療の原理は、がんの研究者なら誰でも思いつく。最近になって急速に研究が進んだのは、ゲノム解析技術が進んだからだ。

1990年にアメリカで始まったヒトゲノム計画の完遂には、13年間の歳月と30億ドルの資金を要したが、この結果、がん細胞のゲノムを片っ端から解析することが可能になった。いまやヒトのゲノムの解読は数万円の費用で、数時間で可能だ。

さらに、コロナパンデミックで技術革新が加速した。それは、mRNAを用いたワクチンや治療法の開発だ。

コロナワクチンで、mRNAを用いたワクチン開発技術の確立に成功したビオンテックと、世界最大の抗がん剤メーカーであるロシュがタッグを組んだのは、このような背景があるからだ。

では、どれくらい効くのか。

残念なことに実用化されるには、もう少し時間がかかりそうだ。前出の『ネイチャー』誌の論文でも、16人の進行膵臓がん患者に投与し、8人に免疫反応が確認されたというレベルだ。がんを治したわけでも、進行を遅らせたわけでもない。それでも、同誌がこの研究を掲載したのは、医学的なインパクトがあるからだ。がん免疫療法が新たなフェーズに入ったといっていい。

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