過食、喫煙の悪習慣をやめたい人に伝えたい真実 自己啓発のアドバイスに従ってもまず解決しない

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いい知らせは、この10年で、習慣が形成される際に脳で何が起こっているか、神経科学者たちがその多くを解明したことだ。習慣は私たちの日常を支配しているかもしれないが、それが脳内でどのように定着し、取りのぞくにはどうすればいいのかを理解すれば、維持したい行動を永続的な習慣に変え、害になる行動を永久に手放すことができる。正しい質問を自分に投げかけ、意志力を高める方法を知り、いくつかの小さな変化を起こせば、必ずや習慣をつくり、あるいは打ち破ることができるだろう。私の爪を噛む癖はまだ直っていないけれど……。

惰性を理解する

脳の奥深くに線条体という領域がある。線条体は自発的な運動に深くかかわっているほか、特定の行動に対する報酬にともなう感覚を生み出すのに、とりわけ重要な役割を担っている。また、行動と、それを実行することで得られる喜びを統合し、ただ面白いことを楽しむ状況から、強制的にそれを求める状態へと移行する神経回路の強化にも関与している。ここは脳の習慣形成センターで、ある種の自動操縦装置である。

詳しく調べると、(爪を噛む、ブラインドタッチを練習する、テニスのサーブを覚えるなど)何らかの行動を最初に起こす際には、複雑なタスクの計画や、意思決定を意識的に行う前頭前野と、動作に必要な信号を送る線条体とのあいだでコミュニケーションが図られていることがわかる。だが時間が経つにつれ、前頭前野にある回路からの入力は減り、線条体と脳の運動領域だけをつなぐループに代わる。このループと記憶回路によって、意識しなくても行動できるようになる。練習で完璧になるのはこのためだ。思考は必要なくなるのだ。

習慣化することの利点は、頻繁に行うタスクに意識を集中する必要がなくなり、貴重な処理能力をほかのことに使えるようになる点だ。欠点は、行動が習慣になると、柔軟性が失われ、中断するのが難しくなることで、習慣を断ち切るには、意識的に介入する必要が生じる。いい習慣なら問題ない。ブラインドタッチ、テニスの動き、車の運転を簡単に忘れたら困るだろう。だが悪い習慣が脳に定着した場合も、やはり取りのぞくのは難しい。「それをしない」という選択をする瞬間を失ってしまうのだ。

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