毎日の炭水化物と脂肪からの摂取カロリーの合計と、タンパク質からの摂取カロリーとの関係をグラフにしたところ、両者の間に固定的な関係が見られた。
食事のバランスを測るとても重要な尺度である、食事中のタンパク質/脂肪・炭水化物比は、ステラが毎日何を食べようが、ひと月の間ずっと変わらなかった。
それだけではない。「タンパク質1に対し、脂肪と炭水化物が5」という、毎日の栄養素の摂取比率は、ステラの体格の健康的な女性に最適な栄養バランスであることが実証されていた。
ステラは食べ物に関するポリシーがないどころか、自分の健康にとってどんな食事が最適か、どうやってそれを実現するかを知り尽くし、それをこのうえなく正確に実行していたのだ。
ヒトより健康的な「ヒヒ」の食事
だがステラは自分の食事を、どうやってそこまで正確に把握していたのだろう? 多くの食品を組み合わせてバランスの取れた食事にすることの大変さを、ケリーはよく知っていた──プロの栄養士でさえ、コンピュータプログラムを使って管理しなくてはならないほどだ。
ステラは栄養学の専門家だったのだろうかと考える人がいるかもしれない。ただ……ステラは人間ではなく、ヒヒだった。
じつに不可解な話だ。私たち人間は正しい食事をするために山ほどのアドバイスを必要とする。
それなのに、野生に暮らす人間の近縁であるヒヒは、どうやら直感だけで、それをやすやすやってのけているようなのだ。なぜそんなことができるのだろう?
この謎を探る前に、さらに不思議な物語をもう1つ紹介しよう。
この話はシドニー大学の研究員、オードリー・デュシュトゥールから始まる。
ある日オードリーは実験の準備のために、外科用メスを手に取って、ネバネバした粘菌の塊を小さな断片に切断した。かたわらのベンチの上には、数百枚のペトリ皿が整然と並べられていた。
それからオードリーは、黄色いベトベトの断片を1つずつピンセットでつまんで、ペトリ皿の中央に注意深く置き、フタで覆った。各皿には、タンパク質と炭水化物の小さなブロックが1つずつ、またはタンパク質と炭水化物の比率の異なる種類のゼリー状のさらに小さな培地(餌)を輪状に並べたもののどちらかが置かれていた。