オードリーはすべての皿に粘菌のかけらを置き終えると、まとめて大きな段ボール箱にしまい、一晩放置した翌日、箱を開けて、皿をベンチの上に並べ直した。
皿を間近で見た彼女は驚愕した。すべてのネバネバが、一夜にして変化していた。粘菌はタンパク質と炭水化物の2種類の餌ブロックを与えられると、両方の栄養素に菌糸を伸ばし、それぞれのブロックにちょうど届く長さになったところで、それらの混合物を取り込んだ。そして、摂取された混合物のタンパク質対炭水化物比は、どの皿の場合もぴったり2:1だった。
さらに信じられないことに、粘菌は11種類の餌ブロックが並ぶ皿に置かれると、菌糸を皿の中央から伸ばしていき、タンパク質対炭水化物比が2:1の混合物を含むブロックだけにコロニーを形成し、ほかのブロックを無視したのだ。
「単細胞生物」の正確無比な食事
タンパク質対炭水化物比が2:1の食餌の、何がそんなに特別なのだろう?
この謎が解けたのは、オードリーがタンパク質と炭水化物の比率をさまざまに変えた混合物を含む皿に、粘菌のかけらを置いたときだ。翌日見てみると、成長していない粘菌もあったが、残りの粘菌は劇的な成長を遂げ、脈動する黄色いレースのような糸状の構造を、皿全体に網のように張り巡らしていた。
その後オードリーが粘菌の成長をグラフにマッピングすると、山型の輪郭が現れた。
タンパク質対炭水化物比が2:1の栄養物の上に置かれた粘菌が成長曲線の頂点に位置し、それよりもタンパク質の比率が低く炭水化物の比率が高くなるにつれて、または逆にタンパク質比率が高く炭水化物比率が低くなるにつれて、粘菌の成長は減少した。
つまり、粘菌は食餌を自由に選ぶ機会を与えられたとき、健康的な発達に最適な栄養素の比率を正確に選び取ったことになる。