ビッグモーター不正報道「完全黙殺」成功の諸事情 メディア追求かわすも…国が動く「もうひと押し」

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ちなみに、ネットニュースの代表格のヤフーでも「スポンサーの新商品記事だから、トピックスで取り上げよう」などということは行われていない。メディアの種類を問わず、ニュースの世界では「スポンサーに忖度しないから、一定の地位にあり続けている」とも言えるのだ。

「完全黙殺」は決して「盤石の防衛策」ではない

さて、ここまではビッグモーターの「完全黙殺」作戦が功を奏してきた原因を見てきた。最後は「これからも」成功し続けるのかどうかを考えてみたい。

「完全黙殺」作戦だが、私は「砂上の楼閣」のように危ういと見ている。新たな「ひと押し」で崩れうるものだからだ。

例えば、「強大な外圧」。国交省記者クラブに所属する記者に「特ダネ」となりうる「内部告発」が持ち込まれたとする。その記者は「内部告発」の事実確認を終えた後、国交大臣の会見で、大臣に直接、その事実を当てることになる。

「私たちの取材ではビッグモーターの不法行為が明らかになっている。大臣はどのように考えるか」などと質問するのだ。大臣は記者に聞かれれば「国交省として事実確認できているものではないが、仮に事実とすれば……」などと業界健全化に前向きな発言をするかもしれない。そうした回答が出なければ、記者はしつこく質問し続けることになる。

「大臣が前向きな発言をしてしまった」「次の大臣会見でも質問されるかもしれない」。こうなれば、国交省の官僚も何らかの「備え」をせざるを得ない。立入検査や行政指導などの動きに波及する可能性も出てくる。行政指導や立入検査となれば、どのメディアも躊躇なく報じることになる。「完全黙殺」は決して「非上場企業にとって、盤石の防衛策」ではないのだ。

500以上の新聞や雑誌記事を検索できる「日経テレコン」を調べると、ビッグモーター創業以来、兼重社長がインタビュー取材を受けている記事を「ひとつも」見つけることはできなかった。長く「沈黙を良し」とする文化なのかもしれない。

「企業は社会の公器」とは「経営の神様」松下幸之助の言葉だ。公であるからには、社会に対して説明責任を必ず伴うはずだ。まして売り上げ7000億円に達する大企業ともなれば、なおさらだろう。個人ならともかく、企業が確たる根拠に基づく不祥事に対し「完全黙殺」など本来、ありえないのだ。

今、ビッグモーターの新卒採用サイトには、「流した汗に、正当な評価を」と大きく掲げてある。若い世代の「汗」が「手段を選ばぬ売上達成」ではなく、「健全な中古車市場形成」に資する「真っ当な顧客対応」で、「正当に評価」されることを願っている。

下矢 一良 PR戦略コンサルタント

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しもや いちろう / Ichirou Shimoya

早稲田大学理工学部卒業。テレビ東京に入社し、『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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