まず「謝罪コメントを出した」ということは「事実」なので、そのまま報じることができる。加えて、当事者が過ちを認めて謝罪しているのだから、当然、謝罪の原因となった行為も「事実」と認定できる。つまり、不祥事の当事者が自らマスコミが報じる「お墨付き」を与えていることになるのだ。
だが反対に「完全黙殺」されたら、どうだろうか。記者は自分自身ですべての事実確認をしなくてはならない。
冒頭のFRIDAYの記事に照らしてみると、まず告発者である「元従業員」を探し当てなくてはならない。だが、日本のどこにいるかもわからない「元従業員」を探し出すのは簡単な作業ではない。
「報道機関と称しているのだから、それくらいの労力はかけるべき」「他者を殺める可能性のある乗り物での不正行為ではないか」といった指摘は極めて正論だ。だが、大きな労力をかけたところで、所詮はFRIDAYの「二番煎じ」。同じ労力をかけるなら「自分が一番乗りになる案件」に取り組みたいと思うのは、記者として自然な感情だろう。
もちろん社会的な注目度が高く、極めて深刻な案件であれば、記者もそのようなことは言ってられない。だが、一連のビッグモーターの不祥事は現時点では「そこまでのものではない」。これが、FRIDAYの第一報にどの社も続かない主因なのだ。
「スポンサーへの忖度」などではない
ネットを見ると「ビッグモーターは広告を出しているから、テレビは報じられないのだ」という声も少なからず見られた。確かに「テレビ局は営利企業だから、スポンサーに不利なことは報じないに違いない」という推論は、一見すると合理的に聞こえる。
だが、テレビの報道現場は世間の想像以上に、スポンサーのことを気にしていないのだ。具体例を挙げると、テレビ東京の「ガイアの夜明け」はレオパレスの違法建築問題を4回にわたって放送した。当時、レオパレスは藤原紀香氏、広瀬すず氏といった有名芸能人を起用したテレビCMを出稿していたにもかかわらず、だ。
私自身の経験で言っても、テレビ東京で7年近く「WBS(ワールドビジネスサテライト)」を担当していたが、「スポンサーの商品を取り上げろ」「スポンサーの不都合なことは扱うな」「スポンサーの競合企業は取材するな」などと上の役職の人間から言われたことは「一度も」ない。
これは「スポンサーに忖度することは、長期的には自分たちの媒体価値を損なう」ということが、全社の共通認識になっているからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら