夫たるもの妻たるものという概念から自由になった2人は、東京で暮らし続けることにもこだわらなかった。現実的な問題として、奈津美さんだけの収入で10万円近い家賃を払い続ける生活では精神的なゆとりを得られないと感じたからだ。
「そういえば家がある」
亮介さんが思い出したのは祖父のきょうだいから父親が相続した関西地方の古い一軒家だ。占いの仕事はオンラインでどこでも可能なので、奈津美さんにも迷いはなかった。引っ越すことによって固定費が大幅に下がり、亮介さんは近所で畑を借りて農業にチャレンジする予定だ。
「亮介さんの実家までは車で20分ぐらいの距離で、義理の両親はちょくちょく寄ってくれます。亮介さんはお母さんの買い物のために車を出す係で、私はみんなのIT担当です。夫婦2人きりだと煮詰まることもあるので助かります」
お互いの短所を許し合い、尊敬し合う2人
7歳という年齢差もこの夫婦にはよい結果をもたらしている。結婚当初、亮介さんは被害妄想的な思考から抜け出せずにいた。ちょっとした言葉の行き違いで、「奈津美さんは怒っている。僕のことをもともと愛していないのだ」といった極端な結論を出してしまいがちだった。奈津美さんは無視も妥協もせずに「認知のゆがみだね」などとガツンと反論。しゅんとした亮介さんが落ち着いたタイミングを見計らって、「さっきはどういう気持ちだったの? 私はこう感じたよ」と静かに会話している。
「奈津美さんのおかげで、最近は自分の気持ちを出せるようになって、変な思い込みを増幅させたりはしなくなりました」
「私も30代の頃にすねてしまっていた時期がありました。だから、亮介さんがきつい言葉を口にしても本心じゃないんだろうなと想像することはできます」
お互いの短所を許し合っている姉と弟のような奈津美さんと亮介さん。その根底には尊敬と感謝の念がつねにある。
ただし、温かい気持ちだけでは生活は成り立たない。この2人の場合は夫婦の役割分担や住む場所などに関する固定観念から徐々に自由になったのがポイントだと思う。
家族のメンバーが興味や特技を伸び伸びと発揮して補完し合えるような環境を作る――。世間体を保つための無理をするよりもはるかに大事なことだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら