かゆくて引っかけば皮膚が傷つき、バリアが壊れるとともに細胞から炎症を促すさまざまな物質が放出され、赤み、ぶつぶつが生じる。
「アトピー性皮膚炎など乾燥皮膚では、かゆみを感じる知覚神経が、表皮の先端まで伸びています。正常な皮膚よりも外界のさまざまな刺激をキャッチしやすく、かゆみに過敏な状態になっています」(菊地さん)
乾燥してバリア機能が低下した皮膚では、アレルギーの原因物質などが侵入しやすく、それらによってもかゆみや炎症が起きる。炎症が起きている皮膚では「モルタルで積み重ねたレンガのような構造であるべき角層」がいい加減にしかできなくなり、バリア機能や保湿機能が十分に担えなくなる。すると、<乾燥→かゆみ→掻破(かき壊しのこと)→炎症→乾燥……>という悪循環に陥りかねない。
このような状態になったら、もう乾燥皮膚ではなく、アトピー性皮膚炎として治療をしていくこととなる。悪循環から抜け出すには、まずステロイドの塗り薬などを使用して炎症を抑えるのが有効だ。
「例えば、『皮膚の赤み』『ぶつぶつ』『触るとざらざらしている』『かゆみがある』『引っかき傷がある』といった症状があれば、炎症があると考えてよいでしょう。乾燥だけに着目して保湿ケアをしても、十分とは言えません。炎症を消し止める治療が必要です」(菊地さん)
炎症の程度に合った強さのステロイド薬などを使用すれば、2週間~1カ月程度で症状を抑えることができるという(最重症などでは例外もある)。
炎症を消し止めてもすぐに再発するような場合は、ステロイド以外の抗炎症薬としてタクロリムス(プロトピックなど)の塗り薬を、例えば週2回のように間隔を空けて使い続けることもあるという。
乾燥用の保湿剤の種類と選び方
炎症が消し止められた後、具体的には「赤みがとれ、ぶつぶつが消え、触るとツルツルし、かゆみもなくなったという状態」になれば、次のステップに移る。そこからは、炎症が治まった状態をいかに長く保つかという点で、乾燥皮膚のケアがカギを握る。
その中心が保湿剤で、医療機関でよく処方されるのは、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)、尿素(ケラチナミン、ウレパール、パスタロンなど)、白色ワセリン(プロペトなど)を含む塗り薬だ。
「ヘパリン類似物質と尿素は天然保湿因子のように、水を吸着する効果があり、乾燥した角層で水を保持する機能を高めます。白色ワセリンは油脂なので、皮膚を覆って水分の蒸散を防ぎます。乾燥がひどい人に有効で、刺激性はほとんどない半面、使用感がべとつくのが難点です」と菊地さん。
保湿剤と一口でいっても、ローション、乳液、クリーム、軟こうといった剤形があり、それぞれに使用感が異なる。菊地さんは、皮膚の乾燥の程度、塗る部位(顔、体)、季節、患者の好みなどに応じて、処方する保湿剤を分けているそうだ。
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