リスクテイクについてもアメリカ人は果敢ですが、日本人は総じて臆病です。そこから安定は停滞であり、現状維持は後退であるという進取の精神も生まれてくるのでしょう。
だから、かつて西部開拓時代に危険を承知で西へ西へと未開の地を開拓していったように、彼らは自分の道は自分の手で切りひらき、自分の城は自分で築くことに大きな意義や価値を見出します。
当然、ビジネスや仕事においても、既存の企業に身を置くよりも、自分の会社をゼロから立ち上げて、成長させていくベンチャースピリットを重視する。
また、成功を得ても、そこに安住せず、次のステージに向けて挑戦を続ける。自分で大きくした会社を惜しげもなく売却して、次にはまた異なる分野で新しい挑戦をくり返す、いわゆる「serial entrepreneur (連続起業家)」がアメリカに絶えず現れてくるのは、そのためです。
連続起業家という言葉は日本ではあまりなじみがありませんが、アメリカではもっとも尊敬される生き方で、「彼は連続起業家だ」などと紹介されると拍手喝采で迎えられる。そういう文化や価値観がビジネス分野のみならず、かの国には広く根づいています。
組織を頼らず、自分の力でゼロからイチを生む創造性や進取性に最大の価値を置くのがアメリカ人のビジネスや仕事の特長であり、生き方の流儀でもあるのです。
ルームメイトに罵倒されたのをきっかけに、都合数年におよぶアメリカでの留学生活中に、私はこうした価値観を肌で感じることになりました。留学の目的は電子工学でドクターの資格をとることにありましたが、私にとってそれよりもはるかに大きな意味をもったのは、この新しい価値観への目覚めでした。
たった1人で巨象AT&Tの牙城を崩した男
そのアメリカ的価値観がよく発揮された、一つの象徴的な〝事件〟を紹介しておきましょう。
私が留学した当時、アメリカの通信業界はあのグラハム・ベルが設立したAT&Tという民間の通信大手企業の独占状態にありました。その堅牢な牙城が崩されたのは、たった一人の先駆者の手によってでした。
それがマックゴーワンという敏腕弁護士で、AT&Tによる独占体制の不公平さにかねがね疑問や不満を抱いていた彼があるとき法律を仔細に調べてみると、「AT&T以外の者がサービスを提供してはいけない」という条文がどこにも書かれていないことに気づきます。
つまり、AT&Tの独占状態には法的根拠がなく、他社が同じサービスを提供することもまったく禁止されていない。 「それならば──」と、彼は自らMCIというライバル会社を新しく立ち上げて、さっさと電話回線まで敷設し始めてしまったのです。