稲盛和夫と共にKDDIを創った男が得た経営の神髄 「ゼロからイチ」を生み出す力が日本に必要な訳

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その「華麗な」バックグラウンドを、彼が「そいつはすごいな」とほめてくれるのではないかという期待を内心ひそかに抱いていたような気がします。しかし意外にも、彼は一言、「damn!」という言葉を罵倒するように吐き捨てただけでした。

これは──いわゆるfour letter wordと呼ばれる──人前で使うのがはばかられる汚い言葉で、当時、南部あたりでは禁句とされていたスラングです(いまではほとんど解禁状態ですが、それでも汚い言葉には変わりありません)。

そんな言葉を、牧師の息子で朝晩の祈りを欠かさない熱心なクリスチャンの、日頃の生活態度も紳士的で性格も真面目なルームメイトが、なぜ私に向かって唐突にぶつけてきたのか。

私はショックを受け、その真意を測りかねて呆然としました。しかし、それから半年くらいアメリカでの生活を続けるうちに、やっとその意味がわかってきました。

所属先の大きさを自慢げに語る私の〝安定志向〟に対する彼の軽蔑。そこには、アメリカの開拓時代から続く、旺盛な独立心と未知へのチャレンジ精神といった、建国以来の歴史に裏づけられたアメリカ人の進取的な生き方、価値観が強く作用していたのです。

そんな彼らの目から見たら、国の庇護を受ける安定した独占企業など、誇るどころかむしろ軽蔑に値するものでした。

大組織に依存し、長いものに巻かれて生きることなど、彼らにとってはもっとも尊敬できない、犬にでも食わせたい唾棄すべき生き方だったのです。

安定を求めて大企業に入り、その環境のなかで自足していた当時の私にとって、それは自分の価値観を根底からくつがえされる強烈な出来事でした。そしてそのことが私が電電公社を飛び出して、DDIをつくるきっかけともなったのです。

この事件を境に、私のなかにはその「チャレンジこそ善、安定や現状維持は悪である」という思いが、徐々に深く根を張っていくことになりました。

アメリカで尊重される「連続起業家」というあり方

ルームメイトが発した罵りの言葉は、私の安定志向への強い嫌悪を示していましたが、そのことはとりもなおさず、彼らがその安定志向とは正反対の果敢なチャレンジ精神に最高の価値を置いているということでもあります。

日本人は優秀な人材ほど大企業への就職を希望するが、アメリカ人は優秀な人間ほど独立起業をめざすといわれます。

また、仕事の内容を問われると、日本人はまっさきに所属する会社や部署の名をいうが、アメリカ人は自分自身が何をしているかを答えるといいます。

つまり、彼らアメリカ人は自立心や独立志向に富んでいて、依存をきらい、安定よりもチャレンジを選び、現状維持よりも変化や変革を求める傾向が強い。

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