プーチンを支えるロシア人の「従順さ」と「人命軽視」 ロシア国民の戦争への支持の高さは歴史的な後進性ゆえ

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ツィプコ氏の指摘を裏付ける典型的ケースがあった。ナワリヌイ派が2021年1月、プーチン氏がロシア南部の黒海沿岸に推定1000億ルーブル(約1400億円)相当の豪華な「宮殿」を所有しているとの暴露動画を公開した問題だ。

世界中で騒がれ、大きな政治スキャンダルに発展するとの見方もあったが、世論調査でもほとんど影響は出なかった。民主義国家では権力者の腐敗は大きな問題になるが、ロシアの政治風土ではいくら追及しても「暖簾に腕押し」なのだ。

ツアーリのように振る舞うプーチン氏にすべてを委ねる多くのロシア人。侵攻の必要性をめぐって、これまでプーチン氏がその言説の力点をまるでゴールポストを勝手に移すように変更しても、国民が後を付いてくる理由もここにある。

侵攻開始時には、ウクライナの「非ナチ化」「非軍事化」という、ウクライナ政権のレジーム・チェンジを掲げていたが、その後はウクライナ・ドンバス地方のロシア系住民の保護を掲げ、最近の力点はウクライナへの憎悪より、ロシア連邦の分解を目指す西側との間の国家存亡をかけた防衛戦争だと変わってきている。しかし、どちらにしてもプーチン氏にすべて任せるしかないと国民は思っているのだろう。

「人命の軽視」という国民性

これまで、権力への「従順さ」という切り口で国民の高い戦争支持を見てきたが、戦争をめぐってはもう一つ重要な歴史的国民性がある。「人命の軽視」である。

2022年9月、侵攻でウクライナ軍に主導権を奪われたプーチン政権は、約30万人を対象に「部分的動員」を実施した。この結果、動員兵が、「大砲のえさ」との言葉が象徴するように、ろくな兵器も訓練もないまま最前線で突撃を命じられているとの訴えが動員兵やその家族から相次いでいる。21世紀とは思えない、この兵士の命に対する驚くべき軽視もロシア軍の伝統なのである。

この伝統について2022年12月アメリカの米外交誌『フォーリンアフェアーズ』で詳述したのが、ロシア軍史に詳しいイギリスの軍事歴史家アントニー・ビーバー氏だ。

1812年にロシア遠征を行ったフランスのナポレオン皇帝はロシア軍に撃退され、多数のフランス軍将兵を見捨てながら帰国して非情さを見せた。だが、ロシア軍指導部は自国兵士の損失について、ナポレオンより「はるかに軽視していた」と紹介した。

それによると、ロシア軍は農奴出身の兵士たちを「肉挽き」戦術と呼ばれる非情な人海戦術に使い、計20万人もの戦傷者を出した。ビーバー氏はこの人命軽視の伝統が、「今のウクライナ戦争でも明らかだ」と評した。

現在のウクライナ戦争でも、ロシア軍の人的損失は加速度的に急増している。2023年2月以降、ドンバス地方の完全占領を急がせるプーチン氏の厳命を受け、ロシア軍は人的犠牲をまったく顧みない人海戦術による攻撃を繰り返し、1日に1000人前後という驚くべき数の戦死者が出ている。

これについてロシアの軍事評論家であるユーリー・フョードロフ氏は、「ロシア社会は戦死者を気にしなくなった。非常に残念だが、これだけの損失を許容しているのだ」と嘆く。ロシアでは最近、夫が戦死した寡婦たちが国から贈られた毛皮のコートを並んで披露して政府への感謝を口にするシーンなど、同様の映像がツイッターで相次いで公開されている。映像のすべてが本物かどうかは不明だが、社会の現状を反映しているとフョードロフ氏はみる。「恐ろしい光景だが、これがロシアの現実だ」と指摘する。

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