長期戦に移行か、年内終結か。ウクライナ戦争は2023年4月、その行方を左右する決定的な局面に入った。ロシアとウクライナはそれぞれ、このヤマ場をどう乗り切ろうとしているのか。双方の本音を探ってみた。
プーチン大統領が1日に2回、ショイグ国防相など軍トップに必ず報告させている問題がある。ウクライナの戦況、とくに東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)での情勢だ。
ロシア軍が2023年1月末から開始した冬季大規模攻勢における最大の激戦地、ドネツク州の要衝バフムトをめぐっては、4月上旬の本稿執筆時点でまだ血みどろの市街戦が続いており、ロシア軍が制圧する可能性も残っている。これが実現すれば、2022年6月以降、戦果がなかったプーチン氏にとっては、待ちに待った戦果となる。
攻撃回数が減るロシア軍
しかし全長1000キロ以上の戦線全体を俯瞰すれば、実現したとしてもバフムト制圧はあくまで局地的勝利。これでロシア軍全体に弾みがつくとは思えない。事実、ドンバスの他の地域では目立った進展もない。プーチン氏が軍に厳命していたと言われる3月末までのドンバス制圧の期限も過ぎた。
おまけにロシア軍の攻撃回数は全体として減ってきている。バフムトの攻防戦の結論を待つまでもなく、大規模攻勢は結局失敗だったとの見方がウクライナや米欧から出ている。それはなぜか。2022年夏以降続いているバフムトの攻防戦がここまで長期化したこと自体、ウクライナ側が仕掛けた、一種の罠だったからだ。
2023年4月以降に南部などで大規模な反転攻勢を計画しているウクライナ軍は、バフムトになるべく多くのロシア軍兵力を引きつけ、多数の人的損失を被らせることにより、反転攻勢への防御に回す兵力を削ぐことを狙っていたからだ。
バフムトではロシア軍に数万人規模の戦傷者が出たと見積もられており、その意味で今後バフムトを失うことになっても、戦略的にはウクライナの思惑通りの展開になったと言える。
バフムトをめぐっては、ウクライナ側にも数千人の死傷者が出ており、アメリカなどからバフムトからの撤収を求める意見もあったが、この時点まで徹底抗戦を続けることは、ゼレンスキー氏が指導者として、自軍の人的損失より、反攻作戦の成功に向けた戦略実現を優先するという冷徹な判断を貫いた形だ。
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