本稿は、今次のウクライナ戦争が古典的な戦争概念と大きく離れた非在来型の闘争……「新しい戦争」と言えるのかどうかを検討するものである。結論から言えば、ウクライナ戦争には非在来的要素が多々含まれるものの、戦場における大規模な暴力行使が闘争の趨勢を決するという点で、この戦争は古典的な戦争と見ることができる。
この点を明らかにするため、本稿では、①テクノロジー、②非軍事手段、③戦争様態の3つの側面からこの戦争のありようを検討した。そのうえで、この戦争はなぜ古典的なのか、日本の安全保障が汲み取るべき教訓は何か、といった点についても論じた。
テクノロジーが変える戦場:UAVを一例として
ウクライナ戦争には、2020年代初頭時点において想定しうる軍事テクノロジーがほとんど投入されている、と言ってよいだろう。
代表例は無人航空機(UAV)、いわゆるドローンである。中でも小型の戦術UAVはロシア・ウクライナ双方がほぼ標準装備として用いており、情報・監視・偵察(ISR)を担う。より大型で飛行性能やISR能力の高い中高度UAV(MALE)も双方が実戦投入しており、こちらは限定的に攻撃任務も担っているようだ。交戦国の双方が大規模にMALEを投入しあう戦争は、おそらく今回が初めてであろう。
さらにウクライナは民生用マイクロドローンによってごく近距離におけるISRを分散的に行ったり、アメリカから供与された徘徊型攻撃UAV(いわゆる自爆ドローン)でロシア軍の後方を打撃するという戦術を採用しており、UAV利用の幅という点ではロシアを凌ぐ。
ただし、現行のUAVは遠隔操縦型であるため、電子戦によって妨害可能であるし、有力な防空システムが存在する環境下でも活動を制約される。実際、ロシア軍が大規模な電子戦を開始すると、ウクライナ軍のUAVの平均寿命は1週間以下に落ち込んだ。他方、アメリカが高速対レーダーミサイル(HARM)をウクライナ軍に供与し始めると、ロシア軍の防空システムは次々と損害を受け、その間隙をついてウクライナのUAVや有人戦術航空機が活動できる余地が広がっていった。
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