開始からもうすぐ1年。ウクライナでの戦局が大きな曲がり角を曲がった。アメリカとドイツが2023年1月25日、ついに両国の主力戦車をウクライナへ供与することを決めたからだ。この決定が意味するのは大きく分けて2つある。
1つは、ロシアに占領された領土奪還を目指し、大規模な反攻作戦をこの近く始める構えのウクライナ軍が地上戦での本格的な攻撃能力を得たこと。もう1つは戦争のエスカレーションを懸念し、攻撃能力の提供に慎重だった米欧が「ウクライナを防衛面だけでなく、攻撃面でも支援する」との政治的意思を曲がりなりにも表明したことだ。
一方で、ロシアのプーチン大統領にとって今回のアメリカとドイツによる決定は、軍事面はもちろんのこと、国内政治的にも極めて大きな打撃になった。なぜか。ロシアでは、戦車が「大祖国戦争」と呼ばれる第2次世界大戦でのソ連勝利のシンボル的存在だからだ。
ロシアにとって「戦車」の意味
2019年、ロシアでは「T34」という戦争映画が大ヒットした。ソ連時代の主力戦車T34が活躍するアクションもので、おまけに監督はプーチン氏の盟友であり、今回の侵攻も強く支持するミハルコフ氏だ。この映画の制作にあたっては、国民の愛国心を刺激し、プーチン氏の求心力を高めるという狙いがクレムリンにあったことは間違いないところだ。
1943年にソ連軍が勝った「クルスクの戦い」は「史上最大の戦車戦」ともいわれ、ソ連の最終的勝利につながった記念碑的出来事だ。つまり、ロシアでは今でも「戦車=ナチドイツに対する戦勝」というのが社会の根底に横たわる強固な固定観念の1つなのだ。
こうした経緯を考えれば、欧州各国からの提供分も含めると、約100両ものドイツの主力戦車レオパルト2が旧ソ連地域、それも大祖国戦争で大きな戦場になったウクライナの広大な平原でロシア軍戦車部隊と対峙するという事態は、極めて衝撃的なことなのである。
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