仮に今後、戦闘でロシア軍の戦車がドイツ製戦車に多数破壊されることになれば、国民が大きな屈辱感を抱くのは確実だ。ずらっと並んだ大戦車部隊を前面に進軍する。これが今までロシア軍の地上戦戦術を象徴するイメージだが、これが一挙に崩れることになる。
2014年にクリミアを一方的に併合し、「戦勝」という誇りを国民にもたらし、高い支持を集めたプーチン氏に対する幻滅感や批判が広がる可能性もおおいにありうる。
プーチン氏はウクライナ侵攻の苦しい大義名分の1つに、ネオナチ的なゼレンスキー政権を打倒するという「非ナチ化」も挙げている。それなのに、ナチスドイツを否定する現代ドイツが、直接兵士部隊を送るのではないにしろ、戦車部隊を送ってくる事態をどう説明するのか。プーチン氏は苦しい説明を求められるだろう。
あせり、いら立つプーチン
侵攻から1年の節目となる2023年2月24日を控えた2023年明けから、プーチン政権は国民に誇示できる勝利を挙げるべく、近く大規模な攻撃を開始する計画を進めており、準備は最終段階にあるとみられている。
攻勢に向けた軍指揮系統の再編成も行った。2023年1月11日には、ロシア軍制服組トップであるワレリー・ゲラシモフ参謀総長を現地の統括司令官兼務にする異例の人事を断行したのだ。侵攻開始以来、拙攻が続くロシア軍に業を煮やし、ゲラシモフ氏に直接、侵攻作戦の直接指揮を命じたもので、プーチン氏のあせりやいら立ちを感じる。
そのあせりの背景には2つの「日程」がある。1つは2023年5月9日の対独戦勝記念日だ。ロシアで最大の祝日であり、モスクワの赤の広場では軍事パレードが行われ、軍最高司令官でもあるプーチン大統領が毎年、演説を行う最重要イベントだ。
しかし、2022年9月に一方的にロシア領への「編入」を宣言したウクライナの東部・南部4州でさえも、ウクライナ軍の反攻により完全制圧ができないままにいる。このままでは、プーチン氏としては勝利宣言もできないとの観測もあるほどだ。
もう1つの日程は、2024年3月に予定されている次期大統領選だ。クレムリン内ではすでに選挙の準備も始まったとロシアのメディアが伝えている。プーチン氏自身は出馬の意志をまだ示していない。通算5期目に向け出馬の構えと見られていたが、このままでは出馬宣言もできないとの見方も出ている。
ウクライナの軍事専門家である、ジュダノフ氏は、ウクライナ軍情報部の情報として、プーチン氏がゲラシモフ氏に対し「(2023年)3月までに東部ドネツク州の完全制圧を命じた」と話す。これを裏付けるように、別の軍事筋は「ロシア軍がベラルーシに配備していた自軍兵力の一部を今ドネツクに向け移動させている。ドネツクでの攻撃の準備だ」と指摘する。
このロシア軍の大規模攻撃計画について、ウクライナ側では脅威と受け止める見方がある一方で、撃退できるとの強気の見方が根強い。その根拠の1つがロシア軍の戦闘能力への疑問だ。
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