米欧の主力戦車供与でウクライナ戦争が変わる 最終決戦の時期で米欧とウクライナの間に溝も

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しかしウクライナの軍事筋は、武器供与全体のスケジュールについて「一部公表されている時期は表向きで、実際の到着はもっと早くなる」と明かす。ウクライナ軍が機甲作戦の先頭に立つと期待しているアメリカ軍の主力軽戦車ブラッドリーについては「早ければ、2023年2月初めに前線に配備される可能性がある」と語る。イギリスが供与する主力戦車チャレンジャー2も同様に一部が2月初めに前線に到着するとの見通しを示した。

一方で、今回の供与決定を前に、ウクライナとアメリカの間で実はさざ波が立っていた。ウクライナの反攻作戦に関し、バイデン政権から反転攻勢の開始を遅らせるようにとの予想外の提案が来たからだ。要請してきたのは2023年1月半ばにキーウを極秘訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したバーンズ中央情報局(CIA)長官だ。

バーンズ氏とゼレンスキー氏との詳しい会談内容は公表されていないが、ウクライナの軍事筋によると、バーンズ氏の要請は以下のような趣旨だった。アメリカ政府の情報ではロシア側では近く大規模な攻撃を行う作戦計画が完成している。攻撃は逼迫している。このため、ウクライナにとって必要なのは、しっかりした防御作戦だ。この攻勢をはね返すことが先決だ。撃退できなければ、この戦争は長期化が避けられない。戦争終結は遠い将来の話になる。撃退できれば、ウクライナ軍は反転攻勢を始められるし、戦争の結果も見えてくる。

領土奪還作戦でアメリカと溝

つまり、本格的反転攻勢は、米欧が供与する攻撃用兵器が到着し、ウクライナ部隊への訓練が完了した段階で始めるべきとの提言だ。夏までに決定的な勝利を果たし、年内に戦争を終結することを目指しているゼレンスキー政権としては、計画の修正を迫られた形だ。ウクライナ軍のブダノフ情報局長はすでに、ウクライナ軍の反転攻勢開始を前提に「3月に戦闘は最も熱いものになるだろう」と言明していたほどだ。

アメリカ側の提案について、ウクライナがクリミア半島奪還に向け攻撃を急ぐ構えなのに対し、アメリカ軍はまず東部ドネツク州などでロシア軍の大規模攻撃をはね返すことが先決と勧告した可能性がある、と筆者はみる。

もちろん「さざ波」は今回のアメリカ、ドイツの主力戦車供与発表以前の段階の話だ。ゼレンスキー大統領が米欧の戦車供与決定をロシアと戦うための「自由の拳」と大歓迎したことを考えると、ウクライナがアメリカ軍の今回の「防御先決提案」を受け入れる可能性もあると筆者は見る。

しかし、いずれにしてもウクライナとアメリカとの間で領土奪還作戦をめぐりまだズレがあるのは事実だろう。アメリカ国防総省制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、ウクライナへの軍事支援問題を協議した2023年1月20日の関係国会合後の記者会見で、ウクライナ側に対し、年内終結戦略を見直すよう半ば促すような発言をしていたからだ。

「軍事的観点からいえば、2023年中にロシア軍をウクライナ全土から軍事的に追い出すことは極めて難しいというのが私の意見だ」と述べた。議長はこう付け加えて、ウクライナ側に配慮も示した。「決して不可能と言っているわけではない。しかし、極めて難しい」と。

2023年内の全占領地奪還を目指して士気が高いウクライナに対し、米欧が共同で軍事支援するという団結姿勢を誇示したアメリカのバイデン政権。だが、その間には微妙な温度差が残っていることを理解しておく必要があるだろう。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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