武器供与で習近平を怒らせたプーチンの誤算 「2023年内勝利達成」ウクライナの悲願は可能か

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クリミア奪還作戦の可否を巡って、ウクライナに対してアクセルとブレーキを同時に踏んでいると評されていたアメリカも、ここまできたらウクライナに任せるしかないと踏ん切りがついたようだ。

ブレーキ役の代表格だったアメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長も3月末の米議会公聴会でこう述べた。「個人的にはクリミアを軍事的に奪還するのは極めて難しい目標だと思っているが、試みるかどうかはウクライナ政府が決めることだ」。

実は、公表されていないが、2023年3月初めにアメリカのブリンケン国務長官がウクライナ側に対してブレーキを掛けていた。「クリミアを攻撃した場合、ロシアが核兵器を使う恐れがある」との懸念を密かに伝えてきた。

反攻作戦はどこから始まるか

この直前に長官は、G20(20カ国・地域)外相会合が開かれたインドのニューデリーで、ロシアのラブロフ外相と短時間接触していた。このため、同軍事筋は「この際にブリンケン氏はロシア側から核を使うぞと脅されたのだろう」とみる。しかしウクライナ側はこのブレーキを無視した。

クリミア奪還作戦をめぐっては現在でも興味深い議論がネット上で行われている。ロシア軍基地が多数あり黒海艦隊司令部もあるクリミアか東部ドンバスのどちらが、反転攻勢の標的としてより容易かとの問いに対して、戦況をウオッチしている複数のロシア系イスラエルの軍事専門家たちが口を揃えて「クリミアに決まっている。イスラエル軍だったら、当然そう選択する」と明快に回答したのだ。

ロシア軍の侵攻状況(2023年4月3日、図・共同)

その理由はこうだ。メリトポリなどを制圧してロシア軍の陸上補給回廊を絶つ。そのうえで、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ、もう1つの大動脈であるクリミア大橋を2022年10月に続いて再度攻撃して、通行不能にする。そうなれば、クリミア半島は事実上「島」と化し、ロシア軍は完全に補給路を断たれる。これに長期間耐えられる軍隊はない。事前に撤退しなければロシア軍は降伏するしかなくなる、というものだ。

一方でウクライナ軍のクリミア奪還に向けた軍事的態勢が万全か、というとそうではない。同軍事筋は、ロシア軍の防衛陣地を攻撃するための航空機など兵器が足りないのは事実」と打ち明ける。

いずれにしても、全領土奪還による2023年内勝利達成という歴史的悲願をウクライナが勝ち取ることができるかどうか。その成否の見通しは、今夏には見えてくるだろう。      

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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