武器供与で習近平を怒らせたプーチンの誤算 「2023年内勝利達成」ウクライナの悲願は可能か

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2022年秋以降、ロシア軍が苦戦した要因としては、お粗末な作戦や士気の低さ、兵器・兵員不足などがすでに表面化していた。しかし今回のロシア側の攻勢の失敗をめぐっては、最近ウクライナの軍事関係者の間で新たに話題になっていることがある。それは地上部隊の攻撃に航空部隊が空からの応援として投入されなかったことだ。キーウの軍事筋の一人は「地上軍と空軍の間で共同作戦が行われなかったことは驚きだ」と指摘する。

元々ロシア軍では、陸空海など各軍の指揮統制を自動的につなぐシステムがないことが問題視され、2010年ごろから全軍をつなぐネットワーク型の指揮統制システム構築の試みが始まっていた。今回陸空共同作戦が実施されなかった要因が、この自動型指揮統制システムの未整備だったかどうかは断定できないが、こうしたロシア軍の前近代的な欠陥が露呈した可能性が高いと筆者はみる。

そうだとしたら、アメリカが提供する衛星情報などを取り込んで立体的な作戦を展開するウクライナ軍の近代的作戦とあまりに対照的だ。

ベラルーシへの戦術核配備はどうなる?

いずれにしても、ロシア軍の攻勢は今後も継続するとみられる。ウクライナ軍はとくに、ミサイル攻撃を警戒している。しかしウクライナの軍事アナリスト、オレクサンドル・ムシエンコ氏は「(2023年)3月31日までのドンバス制圧を実現できなかったロシア軍の攻撃は今後減っていき、ウクライナの反転攻勢への備えに重点が切り替わるだろう」と予測する。

プーチン氏は2023年3月25日、ロシアと「連合国家」を形成するベラルーシへの戦術核配備を決定、同年7月1日に弾頭の保管庫が完成すると発表した。この発表には2つの狙いがあるとみられる。

2023年4月4日に決まったフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を前に、NATOがロシア国境へ大幅に接近することへの強い対抗姿勢を強調することがまず1つ。同時に、ウクライナの反攻作戦開始を前に、ゼレンスキー政権を強く牽制、軍事支援を続ける米欧に対しても、これ以上の軍事支援を控えるよう強いプレッシャーを掛ける「核の威嚇」を狙っているのは間違いないところだ。

しかし、この新たな「核の威嚇」は、クレムリンが期待していた「脅し効果」を得られなかった。ワシントンも、ゼレンスキー政権も比較的冷静な対応をしているからだ。これを象徴するのが、2023年3月28日にアメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官による記者会見での発言だ。「プーチン氏が公言したことを実行に移す動きは見られない」。

それはなぜか。先述したウクライナの軍事筋は「プーチン氏が配備発表の効果を読み誤ったため」と指摘する。まず、アメリカもウクライナも実際に戦術核が実際に配備されるかどうかわからないとみている。これまで侵攻への直接参戦をロシアに強く求められながらも、のらりくらりと参戦を回避してきたベラルーシのルカシェンコ大統領が今回も結局、言を左右にして、実際の配備を先送りするのではないかとの読みがある。

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