会社辞め「フィンランドで寿司職人」34歳彼女の志 魚をさばいた経験なく、触るのも苦手だった

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それまでは、「いつかフィンランドに住みたい」という夢ですら、恥ずかしくて口に出せなかった。そのうえ「フィンランドで寿司職人になりたい」なんて突拍子もなさすぎて、なかなか理解してもらえないだろうと思っていた。

しかし、カフェのオーナーに伝えると「それ、めちゃくちゃいい!」とまさかの大賛成。人生は一度きりだから、人になんと思われようと自分の行きたい道へ進んだほうがいい、と応援され、自分の夢が初めて肯定された気がした。

描いていたプランが崩れた

そうとなると次の行動は早く、早速、有給を使って3週間、フィンランドへ行った。本当に暮らせそうか、試してみるのはもちろん、現地でお店を経営している日本人にアポをとり、移住や就職、開業などリアルな体験談を聞く機会も作った。一方、会社では正社員に昇格。夜は寿司職人養成コースに通いたいと上司に相談したところ、ここでも思いがけず応援してもらえた。

順調に走り出したように思えたが、想定外のことが起きる。入学を考えていた寿司職人養成コースが突然開催中止になってしまったのだ。

描いていたプランが崩れて落ち込んでいたところ、中国に赴任中の先輩から偶然、電話をもらった。先輩からは、もし海外で働くことに興味があるのなら、海外勤務の選抜試験を受けてみたら、と誘われ、締め切り15分前に飛び込みで応募。そして2019年4月からの中国赴任が決まった。

寿司職人養成コースの中止、先輩との電話。想定外に始まった海外赴任だからこそ、期間中は北欧への夢をいったん白紙に戻し、フラットな気持ちで過ごそうと決めた。結果、自分の強みや目指したいキャリアがより鮮明になり、世界中どこでも・何歳でも、自分らしく働ける寿司職人になりたい、と改めて思うようになった。

日本での寿司職人修業時代に作ったお寿司(写真:chikaさん提供)

2020年、新型コロナウイルスの拡大で緊急帰国した後、寿司職人養成学校で日曜日に開講されるコースへ通い始めた。それまで魚をさばいた経験はなく、魚を触るのも苦手。寿司職人が向いているのかどうかも未知数だった。しかし仕事をしながらの挑戦で、無理だったらまた別の道を探せばいい、と気負いなく始めたのがよかった。

養成学校のカリキュラムは包丁の扱い方から始まり、シャリの炊き方や魚のさばき方、職人としての心構えまで体系立った内容で、最後の修了試験合格が目標となる。

難しい課題もあったが「できないことがあると、自分にもまだ伸びしろがあるんだって思えてうれしかったです」。受講生の中には50代や60代で管理職に就いている人もいて「何歳になっても学び直しってできるんだ」と実感した。

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