「ロボットが自動走行して配達」が日常になる日 ロボと人間の"新しい関係性"とは?

拡大
縮小

それを聞いて、「じゃあ、自分には何ができるんだろう」なんて考えていたときに、静岡がんセンターとの共同研究の話が舞い込んできました。

それは、自力で寝返りが打てなくなった末期がん患者向けに、体に負荷が掛からないように寝返りを打てる機械がつくれないかという相談でした。

「ぜひ私にやらせてほしい」と手を上げ、寝返りロボットの研究開発に携わったのがロボット開発に踏み出した最初の案件でしたね。

人間のニーズや欲求をロボットで実現できる面白さ

──その後も大学でロボット研究者として活躍されていたと思うのですが、なぜ途中で企業へ就職する道を選択されたのでしょうか?

大学では、脳梗塞によって身体に麻痺が残った人のリハビリをサポートする技術の研究開発にも取り組んでいました。

そんなときに、父親が脳梗塞で倒れてしまい……。結果的に父親は一命を取りとめ、現在は元気に暮らしているんですが、いざ自分が研究対象にしてきた疾患に家族がかかってしまっても、私の研究は何の役にも立たないんだと痛感したんです。

その経験を機に「研究にとどまらず、テクノロジーを生かしたモノを作り、商品化させ、多くの人の役に立てたい」と思うようになり、パナソニックへ入社することにしました。

なので、私はずっとロボットの先にいる人間に影響を与える技術を開発することに興味を持っているんだと思います。

そもそも、何もニーズがないのにロボットが欲しい! なんて人はいないとも思っていて(笑)

(写真:赤松洋太)

最期まで自分でご飯を食べたいとか、家事を手早く済ませたいとか、寂しい気持ちを埋めてほしいとかとにかくたくさんのニーズや欲求が人間の根底にあって、それがロボットというテクノロジーによって実現されるなら欲しいわけですよね。

決してテクノロジーが欲しいわけではなく、その奥には困っていることや期待していることがあるんだと思うんです。

だからこそ、何をどんな目的でどう動かすのか、それが人の能力や感情、あるいは可能性にどんな好影響を与えられるのか模索し、ロボットで実現できることがいちばんの面白さです。

私にとっては、ロボット開発は人間の可能性を探求しているようなもの。ロボット開発では、その可能性を広げるものづくりができたら本望ですね。

パナソニックホールディングス株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部
ロボティクス推進室 室長
安藤 健さん(@takecando

早稲田大学理工学部、大阪大学医学部のロボット研究者を経て、パナソニックへ入社。ロボティクスの要素技術の研究開発から事業開発まで幅広く取り組むとともに、Good Design賞も受賞したRobotics Hubの運営委員長も務める。ヒトと機械の関係やウェルビーイングに関心を持ち、機械学会ロボメカ部門技術委員長、ロボット学会評議員なども歴任し、学会活動も積極的に行っている

取材・文/夏野かおる 編集/玉城智子(編集部)

エンジニアtypeの関連記事
W杯生中継プロジェクトを乗り越えた『ABEMA』CTO西尾亮太が語る、10年先も成長を続けられるエンジニアの条件
合併発表のヤフー・LINE両社のCTOに聞く若手エンジニアのための“したたかな”成長戦略【小久保雅彦×池邉智洋】
イーロン・マスクも人前に立つのは不得意だった? リーダー業務が苦手なエンジニアが「内向的資質」を武器にする思考法

『エンジニアtype』編集部

キャリアデザインセンターが運営するwebマガジン。「どう創る? これから先のシゴト人生」をテーマに、エンジニアの今後の仕事選択・働き方・スキルアップなどに役立つ情報を配信している。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT