化粧品開発会社3年目の山田咲良は、東京科学技術大学の班目教授と共同で開発された化粧品「ドクターズコスメ」のリニューアル担当に任命された。咲良がプロジェクトの説明をしに班目教授の研究室にうかがうと、身長190センチくらいの、よれよれの白衣を着た大男が部屋から飛び出してきた。その人が、班目教授だった。あいさつを済ませ、咲良はプロジェクトの説明を始める――。
ミッションは「不調のコスメの改良」
「じゃあ、現在の状況を確認したい。どういうふうに再開しようと考えている? 説明してくれるかな」
班目教授は厳しい顔をして言った。四角いメガネの奥で、目が三角になっている。そりゃそうかもしれない。わが社の前任者とは喧嘩したというではないか。私は内心震えながら、片栗課長から渡された資料のコピーを班目教授に手渡し、読み上げた。
「弊社と班目先生との共同研究で誕生したドクターズコスメ『ミレニアム』は、発売当初は好評を博しておりました。ですが最近の販売数は、落ち着いているというか、不調が続いておりました。誕生して5年以上が経過し、近年の消費者の消費動向に合わせた改良を検討したいと考えております」
「どんな方向性の改良を考えている?」
私は資料のページをめくって、彼の質問に答えた。
「現在の製品は、化粧水の形態をとっていました。これにさらにクリーム、美容液ゲルを追加して、複合的なスキンケア・システムを提案します。化粧水、クリーム、そして美容液ゲルの3種類を合わせて用い、皮膚の奥深くまで浸透させることで、皮膚のバリア層に不足している成分を効果的に補います」
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