「最後に、SPFとは何か、答えてもらおうか」
私の体がぴくりと反応した。この単語は知っていた。たまたま、先月自分が関わった製品が、高いSPF値を謳うもので、覚えていたのだ。
「Sun Protection Factor、太陽光すなわち紫外線の防護係数です」
「うん。じゃあ、貴君は新しい製品が目指すものとして高SPF値と言ったが、どのような値を考えている?」
「現在、市場にはSPF値が15から50のものがよく見られます。今回開発するものは、この最大値である50を想定しています」
私は資料に書いてある数値を読み上げた。この数値が書いてあって良かったと、心の底から思った。
「数値」の意味を理解しているか?
「SPF値が15と50では、効果は何倍違うの?」
「?」
効果は……単純に、50を15で割った分だけ高いのでは? でも、どうしてそんな単純な計算について聞くのだろうか? 私は目の前の大男を見上げた。彼の表情からは何も読み取れなかった。
「……約3倍だと思います」
「間違いだ」
班目教授は言った。彼は手元のメモ用紙に、ひとつのグラフを描いた。
「このグラフにあるように、SPF値15の日焼け止めを使った場合、日やけなどの原因になる紫外線B波(UV‒B)をすでに93%防御できることがわかる。その後、SPF値が上がるにつれて、紫外線の防御効果の上昇は緩やかになる。SPF値50でも、約97%となり、あまり差がなくなっているといえる。このSPF値を50にするためには、SPF値15の製品と比較して、大量の紫外線の吸収剤や散乱剤を含ませなくてはならず、それだけ肌への負担が大きくなる」
班目教授は私に視線を戻した。
「私が言いたいのは、このグラフにあるような挙動を示すことを理解したうえで、あえてSPF値を50としようとするのか、もしくは理解せずにSPF値を50にしようとしているのか。そして前者であるならば、あえてSPF値を50とする理由が明確でなくてはならない。SPF値について語るのであれば、このグラフぐらいは知っておかねばならない。違うかな?」
私は深く頭を下げた。
「おっしゃる通りです。私は何もわかっていませんでした」
班目教授は「ふぅ」とため息をつき、こう言った。
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